ムーディーズが日本国債の格付けを格下げ方向で見直し、菅政権の混乱を重視
米格付け会社のムーディーズは5月31日、現在Aa2としている日本国債の格付けを格下げ方向で見直すと発表し、担当アナリストである同社シニアバイスプレジデントのトーマス・バーン氏(=写真=)が会見を行った。
見直しの理由については、【1】3月11日の地震に関連する経済・財政コストが当初の予想をはるかに上回る規模となったこと、【2】現在の政策の枠組みでは、今後も適切な時間軸において財政赤字削減を達成できないとの懸念、【3】人口動態上の圧力の高まりや、危機後の不安定かつ不確実なグローバル経済環境において発生しうる新たなショックに対して、長期的財政再建戦略が脆弱であること--の3点を上げている。
見直しの際の注目点は、「6月に発表される包括的な税制改革の範囲や実効性、及び実施時期の適時性の評価」と、「3月11日の地震に関連する短期及び長期の財政コストと地震が経済に及ぼす影響」の2点としている。
すでに2月にムーディーズは日本の格付けのアウトルック(見通し)をネガティブとしていたが、今回は3カ月ほどでレビューを行う。近く格下げの結論が出る可能性が高い。
バーン氏は、野党自民党が参議院議席の過半数を占めるねじれ国会や、菅直人首相に対する与野党からの政治的圧力の高まりによって、消費税増税などの税制改革への取り組みが困難となる可能性を指摘。財政再建は時宜を得て効果的な削減策を行わないと脱線してしまうとした。小泉純一郎元首相の時代に、財政再建が一定の成果を見せたことについて触れ、政権の安定性の違いを強調した。
また、「問題にしているのは震災の短期的な影響ではなく、長期的な成長性への影響であり、1980年代のバブルが崩壊してから、30年間、デフレと低成長が続いたが、そこから脱却できるのか、長期的な潜在成長率に疑問を持った」と述べた。
今後も弱い経済成長見通しが続く中で、改革プログラムの内容に実効性が乏しい、あるいは実施が遅れるような場合は、格付けに加わる下方圧力が増大し、「Aaレンジの格付けを維持できる可能性が低下するだろう」とし、Aaレンジから転落する可能性についても指摘している。