「高すぎる」13万円の野球グラブ売る会社の正体 兄は西武、レッドソックスで活躍した松坂大輔氏
進学した法大では原因不明の肩肘の痛みで、投手を断念。卒業後、スポーツブランド「アンダーアーマー(UA)」の日本総代理店に入社したが、休職して2年間独立リーグ愛媛で野手としてプレーした。職場に復帰後の2010年にUAが野球事業を開始すると、グラブの開発や販売に携わった。プロ選手も製品に納得して契約を結んでくれたが、そのレベルのグラブは1人の職人が1日2個しか作れない現実があった。「最初は国産にこだわって、ていねいに作っていたけど、利益を求めていくと国内だけでは間に合わなくなった。中国生産も始めたが、一般に販売する物のクオリティーは落ちました」。
プロ使用の品質を一般に届けたい
プロが使っている高品質なグラブを一般にも届けたい。そんな思いが、UAの野球事業が終了した2021年に本格化する。会社を離れ独立した。信頼できる職人との出会いもあり、あらためてグラブをはじめ、革製品を勉強した。日本レザーとイタリアンレザーの歴史をたどると、日本は長く革に携わる職人のままなのだが、イタリアはある時から職人が商人になり、商品のブランド力という付加価値を高め、高収入を得ていったことを知る。「僕のやることは商品に付加価値をつけていくことだと思います」。
同じ革製品なので、ランドセル工場に足を運んだ。毎年春、翌年新入学する子供のために、行列ができる店舗も兼ねた作業所で、10万円を超える高級品から売れていった。工程を見学すると、手作業ながら分業が進んでいた。1人で革からパーツを裁断、縫製して、ひもを通して組み上げていくグラブ製造が、いかに煩雑かを実感する。「それを見た時、確信しました。グラブも10万円だと。それでも安い。ランドセルに代用品があっても、グラブがないと野球はできませんから」。自然に口にした確信…。こうしてクオリティーに自信のあった「ONE OF THE ANSWER」の価格は決まっていった。
「職人さんは1日2個、1週間で10個、1年間で最大520個作れる計算です。そこまで作らなくても、収入は格段に上がるし、余裕ができればお弟子さんを雇えて、技術を継承できます。そうやって、トップクオリティーが一般化されていけばと思います」。
それにしても、高品質の材料をそろえ、今まで以上の工賃を支払うと、価格を上げても大きなビジネスにはなりにくい。「そうですね。だから、こだわりの周辺アイテムを作っていきます」。取材前日も恭平さんは都内の靴磨き職人の店を訪れた。世界一を掲げて、作業代金は1回1万円の職人から革製品の取り扱い方など勉強も続けている。こうやって信頼される商品製作によってブランド力を高め、ほかの道具、アパレルなどにつなげていく計画だ。