「高すぎる」13万円の野球グラブ売る会社の正体 兄は西武、レッドソックスで活躍した松坂大輔氏
子供のころからグラブ磨きが大好きで、無邪気な低学年のころ、きれいにしようと水たまりで洗ってしまい、父親からしかられた。中学時代は大輔さんのグラブも磨いた。そのおかげかどうかは分からないが、プロ入り後、兄は高校生の弟に刺しゅう入りのグラブをプレゼントしてくれた。「『KYOHEI』なのに『KYOUHEI』って『U』が余分でしたけど」。
大輔さんは入団当初は国内大手や海外メーカーとグラブの専属契約を結んでいた。しかし、こちらも根っからのグラブ好きで、晩年は有名無名を問わず、気に入ったメーカーを使用していた。中日時代は「松坂の使っているあのグラブは何?」と話題になり、職人だけの小さな会社が一気に有名メーカーになったこともあった。
松田と柳田が使ってくれた
恭平さんは今、自分が手がけたグラブ4個をスーツケースに詰めて各地を回っている。取材現場でサンプルを見せてもらった。UA時代から交流がある巨人松田宣浩内野手(40)と柳田悠岐外野手(35)が、品質に納得して今季使ったものと同じモデルだ。革の種類は違うのに、ともにしっかり、しっとり手触りがいい。
松田のグラブは指先から手首まで31・5センチと内野手として国内最大級だが、軽く感じた。革質もあるだろうが、重心のバランスをていねいに調整しているのだと思う。柳田の外野手用は逆に小ぶりな印象だが、指先まで神経が行き届いているような強さを感じた。松田の大きさ以外は、驚くべき仕掛けはなく、シンプルなデザインだった。「革製品は自分で手入れをすることで、自分になじんで、自分の物になるんです」。13万2000円が適正価格かどうかの答えは、大事に使い込んでから分かるのかも知れない。
かつて西武担当記者時代に18歳の大輔さんに出会った。その関連で17歳の恭平さんの試合も取材した。少年たちも人生経験を積み、兄は引退して次の道を探し、弟は新たな挑戦を始めた。社名は恭平さんが好きな言葉の「ONE FOR ALL」にちなんだ。「兄貴が好きな言葉でもあるんですけど、1人が人のために何ができるか? それを社名にしているのは、稼ぎたいってよりは、稼がないといけないと思っています。その1つは稼いだお金でそれこそグラブを買えない子たちに提供してあげたい。学生には学割を考えたいんです」。そのために社長兼セールスマン1人、職人1人で始めたグラブ作り。思いはしっかりキャッチした。
(特別編集委員・久我悟)
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