樹木希林さんに寄り添ったセラピストが語る人生 「私が私でいるために、あなたにそばにいてほしい」

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自由に楽しい時間を過ごすうちに、多くの人はそれまで被っていた社会的な顔を取り外して、心が解け、“ただの自分”に戻っていく。そのとき、初めて心の奥にしまい込んだ本音が出てくる。その本音とは、病や死への恐怖や不安ももちろんあるけれど、“残された時間、人生でかなえておきたかったこと”も立ち現れる。

「ずっと心の奥に留めていた願いですね。それは、家族間の解決しておきたい問題とか、自分のミスで仲違いした人と仲直りしたいとか、一度行ってみたい場所があるとか、人によって異なりますけど。心からの願いが現れたら、それをどうしたらかなえられるのかを、対話しながら一緒に考えたりします。思うに、私がやっているのは、その人の心の扉を一緒に開けて、人生でやり残したことをやるお手伝いなのかもしれません」

それまでの人生で多数の花を咲かせた人でも、今世でやり残したことがないと言い切れる人はきっと少ない。

それは人それぞれだが、「多くの人が望むのは、人間関係の再構築」だと言う。どれだけ地位や名誉やお金があろうとも、家族や友人関係に残してきた後悔を、最後に解消させたい。少しでもわかり合いたい、愛を感じたいと切に願う人は多いのだと。

「とある仕事に生きてきた地位も名誉も財もある男性は、妻以外の女性も何人かいて、その間にできたお子さんも何人かいらっしゃいました。一生懸命、働いてお金は運んでくるものの、家族を大切にしているとは言いがたい人生だと自覚していらして。実際、奥様や子どもたちとの間には、不和やわだかまりもあって……。

そんな彼が大病を患って、人生の終わりが見えたとき、『最後は家族とちゃんと話したい、解りあいたい』とおっしゃっていました。彼のような思いを抱く人は、本当に多いんです。どんな人生を送ってきても、最期に求めるのは、“人の温もり”なんだなと」

樹木希林さんからもらったエール

樹木希林さんからターミナルケアの依頼を受けたのは、希林さんのがんが再発して間もなくのことだったという。季世恵さんは、希林さんの娘である内田也哉子さんと友人だったこともあり、かねてから顔見知りだった。

代官山の和食屋の個室で、也哉子さんと3人で顔を合わせた。しばらくすると、希林さんは切り出した。

「私が私でいるために、あなたにそばにいてほしい」。

真っ直ぐに言われて、その役目を引き受けることに決めた。

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