ダニエル・ソカッチ著の『イスラエル』(NHK出版)が興味深い話を紹介している。イスラエルの初代首相のダヴィド・ベン=グリオン氏はイスラエルのナショナル・アイデンティティーについて、3つの要素があると指摘している。
- イスラエルはユダヤ人が多数を占める国家である。
- イスラエルは民主主義国家である。
- イスラエルは新しい占領地(ヨルダン川西岸とガザ地区)をすべて保有する。
そしてイスラエルはこのうち2つを選ぶことはできるが、3つ全部は選べないというのだ。
この指摘こそが、冒頭に紹介した、イスラエルがユダヤ人国家と民主主義国を同時に標榜することの矛盾を示している。
占領地を併合すれば、ユダヤ人とパレスチナ人が半々に
イスラエルの人口は約950万人だが、このうち約2割はアラブ人ら非ユダヤ人だ。つまりイスラエルの現実は、ユダヤ人の単一民族国家ではないということだ。実際、アラブ人を代表する政党が存在し、国会に議席も得ている。
連立与党の極右・宗教政党は、実質占領状態にあるヨルダン川西岸とガザも元はユダヤ人の土地であるとして併合を主張している。両地域のパレスチナ人の人口は500万人を超えることから、併合が実現した場合、この地域に住む住民も当然、イスラエル国民となる。
その結果、ユダヤ人とパレスチナ人の人口は約700万人ずつで拮抗することになる。
民主国家は、国民に等しく参政権などの権利を与える。当然、国会の議員構成も大きく変わり、これまでのようにパレスチナ人を差別的に扱う法律は通りにくくなる。逆に併合後もあくまでも「ユダヤ人国家」にこだわるのであれば、ユダヤ人以外の民族の権利を奪う、つまりは人種差別思想に基づく「アパルトヘイト」的政策を取り入れざるを得なくなる。
建国当初からイスラエルの指導者らは、民主国家と民族国家の持つ矛盾を知っていた。
建国から約30年間、政権を維持してきた左派の労働党は、矛盾が顕在化することを避けるため和平合意の道を探り、ラビン首相が1993年にヨルダン川西岸とガザに暫定自治政府を置くことなどを柱とする「オスロ合意」にこぎつけた。
最終的ゴールが、ユダヤ人国家とパレスチナ人国家が並立する「二国家解決案」だった。
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