イスラエルが抱える「最大の矛盾」が招いた悲劇 ユダヤ人国家と民主主義国家は両立できるのか

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ところが「オスロ合意」をピークに和平に向けた動きは失速していった。

ラビン首相の暗殺以後、テロや武力衝突が繰り返され、市民の不安、不満が強まり寛容性は消えてしまった。それを受けてパレスチナに対する強硬論を訴える右派、タカ派が支持を増やす。

一方で、和平交渉を進めてきた左派勢力が衰退していく。その先に出現したのがネタニヤフ氏の時代である。支持基盤を右派政党からさらに宗教政党まで幅を広げていき、今日に至っている。

彼らは、イスラエルが発足時から抱えている矛盾などまったく意に介していないかのようである。重視しているのは民主国家であることを犠牲にした民族主義であり、領土の拡張である。それを実現するための法律が「ユダヤ国家法」であり「司法制度改革」だ。

占領地の抑圧支配は続けられるのか

前述の『イスラエル』によると、ベン=グリオン氏は、「ヨルダン川西岸とガザという占領地は返還すべきである」ということを言いたかったのだ。そうしなければイスラエルは、民主主義国家でもユダヤ人の国家でもなくなってしまうというのである。

国際的に人権意識が高まっている21世紀の今日、百万人単位の1つの民族を、別の民族が抑圧的に支配しながら安定的な国家運営などできるはずもない。しかし、ネタニヤフ政権を支える極右・宗教政党は、ベン=グリオン氏らの苦悩など想像もできないようである。

むろん今回の大規模テロの責任は、一義的にテロ組織ハマスにある。特に戦闘員でもない一般市民を対象とした大量無差別殺人は徹底的に追及されるべきだ。ガザに住む200万人の命を、イスラエルに向けたロケット弾で守ることはできない。ハマスにはもはや統治者としての責任感は感じられない。

2023年は「オスロ合意」の実現から30年という年だ。当時もイスラエルとパレスチナのPLO(パレスチナ解放機構)は相手を激しく否定していたが、にもかかわらずクリントン米大統領の前でラビン首相とアラファトPLO議長が握手した。

時がたち、兵器は近代化し破壊力が増した。破壊し尽くされたガザの映像は、長く続くネタニヤフ政権のもとで、「二国家解決策」が完全に葬り去られてしまったことを示している。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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