「書店減少」嘆くのにネットで本買う日本人の矛盾 格差拡大の「真犯人」は僕たち自身かもしれない

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小説の中の福田書店が、ネット通販や電子書籍に押されているのも、1人ひとりの行動が原因だ。しかし、ネット通販で買うことが悪いわけではない。小説の中では、先生役のボスという男がこういうことを言っている。

「ネット通販を使うのは悪いことやないで。仕事が忙しかったり、小さい子どもがおったりする人には大助かりや。その便利なサービスを提供する会社ももちろん悪者やない。しかし、結果として、街の書店の売上が減少して、店も減っているのは事実や。自分の行動の影響を理解した上で選択することが大切なんや」
ボスはひとつ咳払いをしてから、話を続けた。
「問題なのは、『社会が悪い』と思うことや。社会という悪の組織のせいにして、自分がその社会を作っていることを忘れていることが、いちばんタチが悪い」
『きみのお金は誰のため』162ページより

日本財団が18歳の男女を対象に「18歳意識調査」を行っている。2022年の調査によると、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」の質問にYESと答えたのは、日本ではわずかに26.9%。他の国々の50~80%に比べると極端に低いのである。

社会は僕たちの選択の積み重ねでできている

しかし、事実は異なる。社会を変えているのは僕たち1人ひとりの選択だ。書店が減っているのは、資本主義のせいでも、ジェフ・ベゾスのせいでも、他の悪者のせいでもなく、僕たち1人ひとりの選択の積み重ねなのだ。タイパ(タイム・パフォーマンス)やコスパ(コスト・パフォーマンス)を重んじるあまりに、その選択が社会に与える影響を忘れてはいないだろうか。

「書店という業態は世の中に街に必要とされなくなっているのだろうか?」という質問に「必要ないです」と答える人は多くはないだろう。しかし、社会に与える影響を考えていないと、結果的に「必要ないです」という行動を選択していることになる

これは書店に限ったことではない。コスパを考えて、食料品を外国から買っているうちに、日本の食料自給率(カロリーベース)は40%を割ってしまった。

同じくコスパを考えて、国内の工場の多くが賃金の安い海外に移された。日本の雇用は減り、設備投資も減り、技術も海外に流出した。日本は貿易赤字国になり、全体の経済力も低下してしまっている。

最近、お金の教育が注目されているが、まずは、お金を通して自分と社会がどのように関わりあっているかを学んだほうがよいのではないだろうか。

近所の書店に行って、『きみのお金は誰のため』という本に出会ってもらえることを願っています。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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