労働組合はかつての役割から脱皮できるか−−ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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労働組合が政治的な影響力を回復しつつある。それはグローバル経済の発展を阻害するのか。あるいは労働者の平等と公平をもたらし、持続的な国際経済の発展に貢献するのか。いずれにせよ、労組は今後の国際経済を見通すうえでの間違いなく不確定要素といえる。

 労組の影響力は国際社会のさまざまな局面で増大しつつある。たとえばドイツでは、メルケル首相が郵便局の労組と最低賃金の引き上げをめぐって交渉したことが論争の的になっている。米国でも、大統領予備選の候補者の数人が、移民などの労働問題に懸念を表明している。中国の指導者も、自国の前近代的な労働基準に対する懸念を表明している。

 労組の存在感は政治だけでなく、学問の世界でも広がっている。経済学者はこれまで何十年にわたり、「労組は失業率を高め、成長を鈍化させる原因」だと酷評してきたが、現在では、プリンストン大学教授のポール・クルーグマン氏らが、「労組は国際化が間違った方向に行き過ぎるのをチェックするために必要」とまで言い切っている。
 
 しかし、労組の役割自体が本当に増大しているかというと、私は疑問である。確かに米国では政治勢力としての労組は台頭しつつあり、民主党のフランク下院議員なども労組の復活に期待を寄せている。

 だが米国では、民間部門の組合化率は1975年には25%であったが、近年は8%にまで低下している。また、グーグルからウォールマートに至るまで、多くの米国企業で、従業員が組合に加入する義務のない制度を採用している。
 
 米国では実質的に、組合化率35%を誇る公共部門が、組合の”最後の砦”となっている。労組の活動家と結婚した私の友人も、米国の民間企業では仕事を見つけられなかったため、自由にストが行えるカナダに移住した。これが労組をめぐる米国の実情なのである。
 
 一方で、中国のような成長途上国では、労組の存在は雇用者と被雇用者との力のバランスを図るうえで、重要な役割を果たしている。同国では労働のコストを上回る生活の質は、実質的には労組によって保障される。それは同国の労働状況が、先進諸国とは異なるからである。現在の中国の労働状況は、労組が結成される以前の米国の労働状況と似ている。中国の炭鉱では近年でも、安全装置の不備などにより何千人もの死者が出ているのだ。

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