死者4万人も「ガザ侵攻」で危ぶまれる凄惨な展開 「宗教戦争」と化したパレスチナ紛争の行方

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シリア内戦を経てイランがシリアに強固な足場を築き、2006年時と比べてヒズボラは戦闘力を格段に向上させている。中には射程が300キロに及ぶイラン製の短距離ミサイル「ファテフ110」数百発も保有しているとされ、テルアビブやエルサレムなどイスラエルの重要都市を機能不全に陥らせる能力があるとみられている。

アメリカ軍は、すでに東地中海に展開した空母「ジェラルド・フォード」を核とする空母打撃群とともに、空母「ドワイト・アイゼンハワー」とミサイル巡洋艦、2隻のミサイル駆逐艦で構成する空母打撃群の派遣を新たに命令。

ヒズボラやイランの軍事介入を警戒している。バイデン政権は2024年の大統領戦をにらみ、ユダヤ系やキリスト教右派の投票行動への思惑から親イスラエル姿勢を鮮明にしており、ヒズボラやイランが動けば、アメリカ軍も限定的に参戦する可能性も帯びる。

双方「戦果」を誇示して停戦に向かう

中東の他地域への戦火拡大やヨルダン川西岸への騒乱拡大、第3次インティファーダ(対イスラエル抵抗闘争)への発展がなければ、最終的には、双方合わせて数千人から1万人を超す死者が出て、イスラエルはハマスの脅威を除去したなどと発表する一方、ハマスはイスラエル軍に打撃を与えたと戦果を誇示して双方は停戦に向かうだろう。

だが、イスラエルの生存権を認めないハマスは戦力を再構築して、数年後にはイスラエルに脅威を与える存在になることは間違いない。2国家共存を不可能にするようなヨルダン川西岸での入植拡大を進めるイスラエル右派と、過激化するハマスの宗教に刺激された争いの着地点は見えてこない。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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