今後、円安否定派と肯定派の主張のバランスが崩れる可能性があるとすれば、「中期スパン」の設備投資の考え方だろう。すなわち、「円安でも設備投資があまり増えない」という展開が起こりうると、筆者はみている。
岸田首相は9月26日の閣議で、総合経済対策を10月中にまとめるよう各閣僚に正式に指示した。経済対策は下記の「5つの柱」で構成されることになった。
②地方、中堅・中小企業を含めた持続的な賃上げ、所得向上と地方の成長の実現
③成長力の強化・高度化に資する国内投資の促進
④人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革の起動と推進
⑤国土強靱(きょうじん)化、防災・減災など、国民の安心・安全の確保
今回の経済対策は、電気代・ガス代の補助金など①物価対策に注目が集まりがちだが、最重要項目は③国内投資の促進だろう。前述の議論で言えば「中期スパン」で期待される円安のメリットを享受しようということである。
円安で国内投資増は日本の「新興国化」
しかし、日本で生産拠点を作るコストが円安で小さくなっても本当に国内投資は増加するのだろうか。
例えば、通貨安や物価安のメリットを対内投資の増加によって享受するのは、新興国でみられる典型的な成長パターンである。「安い日本」というテーマは日本の新興国化という面もはらんでいる。
しかし、多くの新興国においてこのパターンがうまくいく背景には、人口動態が「若い」という要因がある。海外の技術を学んで生かす人が国内で増えていくことで、内需も活性化されるのである。
そう考えると、「人口減少する新興国」と言えそうな日本では、対内投資のメリットはそれほど大きくないのかもしれない。それどころか、投資をしてもそれを支えてくれる人材がいないとなれば、そもそも投資を手控える動きにもつながるだろう。
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