心臓病の最終段階、じわじわ襲う「心不全」の怖さ 心筋梗塞や狭心症は「治療すれば安心」ではない

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症状が出てからでは遅い、ということなのだが、一方で、「自覚症状がなくても自分では気が付いていないだけで、すでに症状が出ていることもある」と横井氏。それは心不全が徐々に進行する病気だからだ。

「動いたら体がきついのは歳のせいだとか、最近、運動していないから足がむくんでいるのかもしれないなどと思っていたら、実は心不全の症状だったということはよくあるので、注意してほしい」

さまざまな問題を抱える心不全。その予備軍を見つけられるのが健診の胸部X線写真(レントゲン)だ。

健診の画像検査でわかる予兆

健診で再検査が必要となる異常所見の1つに、心臓のサイズが大きくなる「心拡大」がある。心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれているが、そのいずれかが大きくなり、画像に心臓のシルエットが大きく映ると心拡大が疑われる。

心拡大となるのは、心機能が低下すると、それを補おうとして心臓の内腔が大きくなるからだ。心臓は全身に血液を環流させる役割を担っているので、心不全となり心臓から血液を送り出しにくくなると、心臓は拡大していく。

横井氏は「胸部X線写真から得られる情報は、心臓の大きさだけで、4つある部屋のどこが大きくなっているかまではわからない。そこで、超音波検査で心臓の状態を見て、4つの部屋のどこが拡大しているかを突き止める。それで原因となる病気が推論されれば、そこからさらに検査を行っていくことになる」と解説する。

では、心不全予備軍の人、あるいは心不全予備軍にならないためにはどうしたらいいか。横井氏がまず心がけてほしいこととして挙げるのが、「血圧コントロール」だ。

血圧が高く、ふつうよりも強い力で押し出さないと全身に血液がめぐらない状態が続くと、心筋が徐々に肥大してくる。その状態が「心肥大」だ(前述した心拡大は心臓が大きくなることで、心筋が大きくなることは心肥大という)。

筋肉が大きくなるのは骨格筋では望ましいことだが、心筋の場合は肥大することで変性し、心臓を収縮させる力が落ちる。その結果、心不全への道を歩むことになる。

年を重ねるにつれ血圧は高くなるので、働く世代からの血圧管理が大事だ。少なくとも健診などで血圧が高い(高め)と指摘されていれば、塩分の制限や、運動や食事による適正体重の維持、適切な睡眠、ストレスマネジメントなどが必要になる。

高血圧に比べると頻度はかなり低いが、心筋炎も心不全の原因になる。心筋炎とはウイルスが心筋に感染して心筋細胞に炎症が起こり、心機能が失われる病気だ。

心筋炎を起こすウイルスは多様で、約3年間の新型コロナウイルス禍では、コロナ感染した後に心不全となって亡くなったケースが見られた。心筋炎にならないためには、日頃から風邪などを引かないよう、帰宅したら手洗いやうがいをするなどの標準的な感染対策を怠らないようにしたい。

そして日本はいま、“心不全を含めた循環器疾患に対する法整備”を進めている。

2018年12月、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法、いわゆる「脳卒中・循環器病対策基本法」が成立し、翌年12月に施行された。

同法に基づき、循環器病対策推進基本計画(2023年度から2028年度までの6年間が目安)が進行中だ。健康寿命を延ばすことを目標に、疾患啓発や重症化予防のほか、救急搬送体制の構築などといった施策が進められている。

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