ロシアはいまだに「途上国」であるという根拠 プーチンの政策が時代錯誤に見えるわけ

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松本:なるほど。もう1つよく言われるのは、エリツィンの醜聞を「プーチンがKGBの力を使ってもみ消した」ということですね。そうなると、エリツィンは部下のプーチンに頭が上がらなくなります。

茂木:大統領の座に就くまで、プーチンはうまく立ち回りました。

松本:大統領就任後、まずプーチンはテロリズムに厳しい対応をしました。2000年代に、プーチンの下で大規模なテロリストの粛清がありました。

アメリカ同時多発テロ時の米露関係は良好だった

茂木:そして、プーチンにとって非常に都合が良かったのは2001年の「9.11」、アメリカ同時多発テロ事件でした。アメリカ大統領のブッシュ・ジュニア(ジョージ・W・ブッシュ)が「対テロ戦争」を発動すると、プーチンはすかさず「わがロシアも対テロ戦争を行う」と宣言しました。だから、あのとき実は、米露は良好な関係だったのです。

松本:プーチンとブッシュが「See you(またね)」と挨拶を交わした映像も残っていますね。

茂木:その一方で、前回少しお話ししたように、プーチンは新興財閥オリガルヒに対する締め付けをじわじわとやっていった。

松本:いまでも覚えているのは、モスクワで劇場占拠事件があったことです。チェチェンの武装組織がモスクワの劇場を占拠したときに、外側から毒ガスを中に送り込んで、テロリストたちをガスで亡き者にした……そんな映像が衝撃的でした。

茂木:あれは一種の神経ガスで、一瞬で意識を失うようなガスを撒いたのです。それで犯行グループも、人質になっている民間人もみんなブッ倒れてしまった。制圧はしたのですが、民間人の何人かは呼吸困難で亡くなりました。

松本:それでも、テロリストに対するプーチンのこの強固な姿勢は、ロシアではおおむね好意的に受け止められたようですね。「新しいリーダーは、プーチンしかいない」と。

茂木:それはまさに、「なぜプーチンがあれだけの権力を握れたのか」ということの2本柱のひとつです。1つの柱が、いわゆる汚職の摘発、オリガルヒを解体するということ。そしてもう1つの柱が、テロとの戦いで治安を回復するということ。だから、エリツィン時代のカオスを経験したロシア人からすれば、プーチンは本当に救世主のように見えたのです。

松本:確かに、エリツィン時代のロシアは酷かったようですね。

茂木:ええ、いまのロシア人で「エリツィン時代が良かった」という人は皆無でしょう。

松本:同感です。ロシア人にとっては、恥ずかしい時代だったのかもしれません。「石鹸がないから体が洗えない」ということを、1990年代にロシアの人々は言っていましたから……。

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