茂木:そこは、ロシアの置かれた地政学的な弱みです。あまりにも長すぎる国境線、それを守ろうと思ったら、強力な軍隊が不可欠です。隣国に攻め込まれる前に、予防措置としてこっちから出ていくということをやらざるを得ない。
松本:その「予防的に出ていく」というのが、もう世界史的には認められなくなって久しいのに、それをあえていまやっているからプーチンの政策は時代錯誤に見えるのですね。
プーチンは「発狂した」わけではない
茂木:プーチンは、最初にチェチェン、次にジョージア、その次にクリミア、そしていまのウクライナ東部、という4つの紛争・戦争をやって国際非難を浴びているのですが、「これは合理的な判断である」「プーチンは頭がおかしくなったわけではない」という見方もあります。
例えば、アメリカの国際関係学者ジョン・ミアシャイマーは「国家というものは生き残るためにあるのであって、身を守るために武装し、必要に応じて戦争をするのは当然である、そこには善も悪もない」と言っています。
松本:それを地で行っているのがプーチンであるならば、そのプーチンに市民道徳的な善悪を当てはめようとしてもナンセンスかもしれないですね。
茂木:その通りなのですが、それをずっとやっていたのが第二次世界大戦(1939~1945年)までの世界――いわゆる「帝国主義」の時代だったのです。その反省のもとに、曲がりなりにも「国際連合」というものをつくった。
「もう予防戦争的なことをやってはいけません」「安保理決議がなかったら戦争はできません」ということを取り決めたわけです。しかもロシアはその安保理事会の常任理事国、五大国の一つとして拒否権などの特権も与えられている。
プーチンはウクライナ侵攻によって、それらの取り決めを「ちゃぶ台返し」してしまった。この結果、ロシアは「侵略国家」の汚名を着せられることになった。その点に関しては、プーチンの失策だったと私は考えます。
私は「プーチンが発狂した」とは考えていないので、このようなデメリットを上まわるメリットが得られると判断して、ウクライナ侵攻に踏み切ったのでしょうが……。はたしてその判断は正しかったのか、歴史に裁かれると思います。
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