松本:プーチンの成果として、2000年代のロシア経済を復活させたことも挙げられます。ある種の市場経済を導入しつつも、基幹産業は国営に戻します。ミハイル・ホドルコフスキーやボリス・ベレゾフスキーといったオリガルヒたちを追放したことも、一般大衆だけでなくジャーナリストたちにも拍手で受け止められた、そう聞いたことがあります。
茂木:いい意味で、開発独裁的な政権だったのでしょう。かつての韓国とか台湾とかインドネシアのように。
ロシアはいまだに「途上国」である
松本:話が少しずれますが、そういう開発独裁をやっている国に「自由主義ではない。遅れている」と、自由主義を達成した国が批判しても仕方がない面があると思うのですが。
茂木:その通りです。各国にはそれぞれの発展段階があります。民間企業が成長をしていない段階で自由化すれば、それはすべて外資に食われてしまいます。だから、明治期の日本も関税自主権の回復に力をつくした。あれは要するに、外資の規制です。外国から国内の産業を守る努力は、どの国でもやってきたことです。
松本:ここまでのお話を聞いていると、プーチンはロシアの正当なナショナリストという気がしてきました。そしてそのプーチンが、2022年にウクライナへ軍事侵攻をし、世界に衝撃を与えているのはなぜか。
茂木:まず、ロシアを先進国と思わないほうがいいでしょう。20世紀の大事な時間を、共産主義という無駄なことに使ったがために、ロシアの民間企業がまったく成長できなくなってしまった。それを西側並みに経済発展させるためには、やはりある程度の国家主導の経済が必要です。ロシアはまだ、そういう段階なのです。
松本:なるほど。ただ「プーチンは世界史の流れを100年前に戻した」という批判もあります。
茂木:欧米先進国からすればそう見える、ということだと思います。先ほどお話ししたように、各国にはそれぞれの発展段階がありますから。
松本:とはいえ、西側としては「ロシアは20世紀を無駄にした」ということは言わなければいけないでしょう。その意味でいえば、共産主義の爪痕というものが経済成長やテクノロジー開発にも悪影響を与え、国全体が停滞した……。しかも軍事力だけは突出するという、いびつな国家構造になってきているので、いまのロシアというのはとても特殊です。