今後「PBR1倍超」企業も株価上昇が期待できるワケ 改革に消極的な企業は来夏までに追いこまれる

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東証は同資料で開示状況をさらに詳しく報告している。すなわち時価総額に比べてPBRが低い企業ほど開示が進展しており、PBR1倍未満かつ時価総額1000億円以上のプライム市場上場会社では、45%が開示したという。だが、ここでも検討中の企業が入っており、それを除くと31%にとどまる。

また実際、個々の企業はどんな取り組みをしているのか。開示書類の中身を見ると、「中期経営計画」や「決算説明資料」がそれぞれ3割程度と多いという。

また、資本収益性や市場評価の改善に向けた具体的な取り組みとしては、成長投資や株主還元強化、企業の持続可能性への対応、人的資本投資、事業ポートフォリオの見直し等が多いという。また、ROEが比較的高くてもPBR1倍未満の企業ではIR強化を掲げる企業も多かった。

取り組み等が開示されている場合でも、既存開示の枠内にとどまるなど記載が不十分な例も一定程度見られたという。私は今後、株主と対話をすればいいと考えている。まずは100%に近い開示を期待したい。中身は徐々についてくるはずだ。

真剣に改革に取り組む東証を評価

東証は「改革第1弾」の試みによって、国内外の投資家などから「日本企業が変わりつつある」と肯定的な評価を得たことに手ごたえを感じながら、

一方で、高PBR企業や時価総額が小さい企業など、対応が相対的に遅れている企業については①PBR1倍超の企業は今回の要請が関係ないと誤解②経営者が対応の意義や必要性をあまり感じていない③対応を進めるための企業の人的資源などが整っていない、などの問題をあげる。私はこうした東証の真摯な態度に共感する。上記①~③の課題に応えるのは上場企業の側だ。残された時間はそう長くないはずだ。

今後も東証は粘り強くフォローアップ作業を実施、改めて今回の要請がPBRの高低にかかわらず、すべてのプライム・スタンダード市場上場に向けた中長期的な企業価値向上の実現のための施策であることを周知徹底する予定だ。

また、投資者の視点を踏まえ、企業がうわべだけの対応をしないよう、望ましい取り組みの事例など模範解答を示しながら、積極的に発信していくという。

私は、東証が上記のような対応を続ける限り、開示に消極的な企業は、来年4~6月にはいよいよ追い込まれるとみている。この中で、やはり「大きな経営の変化は買い」と判断したい。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

糸島 孝俊 株式ストラテジスト

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いとしま たかとし / Takatoshi Itoshima

ピクテ・ジャパン株式会社投資戦略部ストラテジスト。シンクタンクのアナリストを経て、日系大手運用会社やヘッジファンドなどのファンドマネジャーに従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株ファンドの運用経験を持つ。ピクテではストラテジストとして国内中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」は隔週月曜日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュースプラス9」、ストックボイス、ラジオNIKKEIなどにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。

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