岸田政権が企業にちらつかせる「アメとムチ」 補正予算では無理筋の「減税」にあえて触れた

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こうして見渡すと、防衛財源や子ども財源を確保するために、企業に負担増を今後求めることが予見される。そうなると、経済界からは、「企業に対して今後ただひたすら負担増を求めるだけなのか」との不満や批判が出てこよう。

拙稿「日本をよそに仁義なき保護主義に立ち返る欧米」で触れたように、最近になって政策優遇を受ける欧米企業と対峙する日本企業に、防衛財源や子ども財源の確保のための負担増ばかりを強いることになれば、日本で生産や研究開発をしづらくなりかねない。加えて、コロナ後を見据えて、新たな産業構造に転換していくことも迫られている。

負担増を打ち消す「優遇」で賃上げや投資を促す

そう考えれば、わが国において活発に活動する企業に対しては、政策的な恩恵が得られるようにする必要が出てこよう。

企業の利益は増えているのに賃上げも新たな投資も不熱心な企業には、その利益に課税するなどして今後負担増を求めるが、賃上げや新たな投資に積極的な企業は、負担増を打ち消すような政策優遇が受けられるようにする。こうした政策スタンスが、前掲の岸田首相の発言の背景に見え隠れしている。

もちろん、物価上昇局面で、企業への政策支援を補助金増や減税だけを行えば、物価上昇要因になる。だから、すべての企業ではなく活発に活動する企業にのみ、物価上昇を上回る賃上げにつながる付加価値の増加、それに労働分配を促せるような政策誘導を行うなら、物価上昇の悪影響を和らげられる。

企業への減税だけを行えば、物価上昇を助長するが、防衛財源や子ども財源の確保において今後負担増を求めることとしており、それだけ物価上昇を緩やかにできる。

防衛財源では国債増発を予定していないが、子ども財源ではつなぎ国債の発行を認める方針である。しかし、国債増発を伴う歳出増は、物価上昇を助長する。物価上昇の悪影響を拡大しては子育て世帯のためにならない。

今次補正予算こそ、規模ありきではなく、物価上昇を助長しない適切な政策が実施できるものとすべきである。そのためには、補正予算で国債増発をいかに抑えられるかが焦点となる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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