【産業天気図・鉄鋼】中国台頭で高級鋼材の勢いに陰り。アジア戦略に求められる先見性
鉄鋼の空模様は、足元の「快晴」から次第に「晴れ」へと変わっていくだろう。
その理由は、汎用材に加え、高級鋼材の増勢にも若干の陰りが見えるためだ。新日本製鉄<5401.東証>とJFEホールディングス<5411.東証>は、中国や韓国メーカーの供給増で国際需給が緩み、高級品を含めた価格が低下に向かう懸念が増すとみる。すでに一般流通市場向けの汎用品(非高級品)は中国の国産品との価格差で割高感が生じ、2006年4月以降「中国品の価格水準に引きずられて国産品の熱延鋼板等の価格は低下せざるを得ない」(大手鉄鋼流通業者)とされている。
加えて、市場関係者の間では「日本が優位とする高級鋼材でも、中国が06年度後半から供給力を高めるため、汎用品と同じような価格軟化傾向が顕著になる」との見方も、一部ではあるが出始めている。
高級鋼材は今05年度、鉄鉱石7割高など鉄鋼原料の急騰という値上げ転嫁の「大義名分」があり、「自動車用で1トン当たり1万円の2割増」との大幅な値上げに成功した。しかし、06年度については、鋼材値上げは難しい情勢だ。「06年は鉄鉱石が1割程度上がる一方で、コークス炭は1割程度下がる」との観測があり、そうなれば、ネットで原料価格は上昇しないことになる。むしろ日本の自動車メーカーは、韓国や中国など海外のライバルメーカーが割安に自動車用鋼板を調達していれば、その価格に合わせて新日鉄やJFEなど日本の高炉各社に値下げを求めることすらあり得る。そうなれば、05年度より利幅が圧縮され、利益増の勢いは反転する。
日本の高炉各社は今06年3月期に鉄鋼事業で過去最高益を記録するのは確実だ。が、中国の鉄鋼生産は政府の規制をあざ笑うかのように増え、供給過多による中国での国内価格低下を招いている。中国は現在、月間300万トンずつの増産で年間3億4000万トンに達する勢い。06年は年間4億トンが視野に入るかもしれない。しかも、この増産は汎用品だけではない。中国では、新設製鉄所から高級鋼材が06年半ば以降に市場に一部供給されるためだ。
こうした中国台頭を「災い転じて福となす」ような、先を見たアジア域内での事業戦略が新日鉄とJFEには一層求められる。さもなければ、06年10月~07年3月以降、さらにその先の長期トレンドは「晴れ」が続くかどうか、予断を許さない情勢が待ち構えている。
【古庄英一記者】
(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部
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