ひきこもりをやめ婚活にかけた30代男性のその後 「恋愛経験ゼロ」だった彼が「見合い」を続けた訳

✎ 1〜 ✎ 171 ✎ 172 ✎ 173 ✎ 最新
拡大
縮小

「こんなことを言っていいかどうかわからないけれど、夫が事故で他界したとき、どこかホッとしている自分がいたんです。“ああ、もう顔色をうかがわなくていいんだ”と思って」

ただ、2人の生活が1人になったことで、家に1人でいるのが寂しくなるときもあった。そこで、それまでできなかったことをすべてやってみた。友人と夜の時間を気にせずに食事をして、帰宅する。女同士で観劇に行ったり、旅行に出かけたりする。

「最初は、“自由って素晴らしい”と思っていましたが、そんなことを2年続けると、新鮮味もなくなった。それに、家庭を築いている友人たちは、家族を放ってちょくちょくは出かけられないですし、また1人で過ごす時間が増えていきました」

今度は、自由を持て余すようになった。

「27年間、毎日料理を作る生活をしていたのに、1人だと料理をする気も起こらない。材料を買って作っても食べきれないし。そう考えてみると、家族がいた生活が、だんだんと懐かしくなってきた。結婚も、相手選びさえ間違えなければ、悪いものじゃないなと思うようになったんです」

結婚という制度は悪くはない

そして婚活をスタートさせ、その半年後、2つ年上のみちや(仮名)との再婚を決め、成婚退会していった。

それから1年後。今度は娘のさゆり(27歳、仮名)を連れて、ふたたび筆者を訪ねてきた。「娘の婚活をお願いしたい」とのことだった。さゆりと面談し、入会の手続きを終えると、みなこは現在の夫との1年間を、こう振り返った。

「前の夫は、料理の中に私の髪の毛がたまたま入っていて、それを見つけると、箸をテーブルの上にバンと置いて、もうその日はそれ以上ご飯を食べなかった。虫のいどころが悪い日は、そこからしばらく怒鳴り散らしていました」

今の夫と再婚した当初、料理の中に髪の毛が入っていたことがあったという。気づいた夫は、“あれ?”と髪の毛を手でつまみあげた。

「私、咄嗟に “わっ、怒られる”と思って、心臓をバクバクさせちゃったんです。ところが夫は、それを近くにあったティッシュに包んで捨てて、何事もなかったかのように食事を続けた。もうそれだけで、“この人はなんて優しいんだろう”と思ってしまいました。出会って1年ちょっとですが、夫が怒ったり声を荒らげたりしたのを見たことがないんです」

そして、しみじみと言った。

この連載の一覧はこちら

「前の夫が亡くなったとき、 “自由っていいな”と思ったこともありました。ただ、私は1人でいるよりも、やっぱり結婚という形の中に身を置いておくほうが心地いい。結婚という制度は悪くないものだと思っています。ただ、どういう相手と結婚するかが大切なんですよね」

人生を切り開いていくのは、自分自身。人生を充実させ、楽しんでいくのも自分自身だ。今、婚活を続けている人たちは、志半ばで結婚を諦めることなく、お相手に出会えるまでは続けてほしいなと、仲人である筆者は思っている。

鎌田 れい 仲人・ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

かまた れい / Rei Kamata

雑誌や書籍のライター歴は30年。得意分野は、恋愛、婚活、芸能、ドキュメントなど。タレントの写真集や単行本の企画構成も。『週刊女性』では「人間ドキュメント」や婚活関連の記事を担当。「鎌田絵里」のペンネームで、恋愛少女小説(講談社X文庫)を書いていたことも。婚活パーティーで知り合った夫との結婚生活は19年。双子の女の子の母。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイトはコチラYouTubeも開設。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT