学生に「生成AIを使うな」と言うのはナンセンスだ 今後は「AIネイティブ」世代への対応も課題に

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こうなると、使うなというほうに無理がある。便利なものはいくら使用を禁止したところで広がっていく。

教育現場では今から、AIとの共存方法を考え、人間の思考力を補完するツールとなるような使い方を教えていく必要がある。

現在の状況を見るかぎり、今後、生成AIが加速度的に社会へ浸透していくことはほぼ間違いない。その前提に立てば、あと数年で社会に出ていく大学生に対し、AIの利用を禁止することはナンセンスである。むしろ自由自在に使いこなせるようにしなければ、就職に苦労するばかりか、仮に就職できてもすぐにAIに代替される人材を量産することにもなりかねない。

「AIネイティブ」にどう対応するか

今後、生成AIがパソコンやスマートフォン、SNSと同じように普及すると、これから生まれてくる子どもたちは幼少期から生成AIに囲まれて育つことになる。これまでもインターネットやスマホに囲まれたデジタルな環境で生まれ育ち、デジタルツールを自然に使いこなすスキルを身につけている世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれてきた。これから先、このデジタルネイティブに「AIネイティブ」が新たに加わることになる。

彼らは生まれたときからChatGPTが存在し、ChatGPTありきの環境で育つ。そうした子どもたちははたしてChatGPTの回答を何の疑いもなしに正しいとは信じずに、疑問を感じたり、倫理的な問題の有無を正しく評価したりできるのだろうか。

文部科学省は生成AIの使い方をめぐり、小中高向けガイドラインの策定作業を進めている。「生成AIを使いこなす力を育てる姿勢が重要」としつつ、著作権侵害や批判的思考、創造性への影響といった懸念やリスクもあると指摘し、限定的な利用から始めることを推奨する模様だ。

しかし、これはAIがすでに普及している時代に生まれ育った世代ではなく、後天的にAIを使い始める「AIイミグラント」を対象としたガイドラインにすぎないように感じられる。AIイミグラント(移民)とは、大人になってからAIのある世界に〝移り住んだ〟ような意味合いである。もう一歩踏み込んで、AIネイティブ向けのガイドラインの策定、あるいは教育課程の見直しも必要ではないだろうか。 

城田 真琴 野村総合研究所 DX基盤事業本部 兼 デジタル社会研究室 プリンシパル・アナリスト

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しろた まこと / Makoto Shirota

2001年に野村総合研究所にキャリア入社後、一貫して先端ITが企業・社会に与えるインパクトを調査・研究している。総務省「スマート・クラウド研究会」技術WG委員、経済産業省「IT融合フォーラム」パーソナルデータWG委員、経産省・厚生労働省・文部科学省「IT人材需給調査」有識者委員会メンバー等などを歴任。NHK Eテレ「ITホワイトボックス」、BSテレ東「日経プラス10」などTV出演も多数。著書に『FinTechの衝撃』『クラウドの衝撃』 『エンベデッド・ファイナンスの衝撃』『決定版Web3』(いずれも東洋経済新報社)、『デス・バイ・アマゾン』(日本経済新聞社)などがある。

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