古事記の世界に転生した男、因幡の白兎に出会う 神様ナムチの冒険譚 小説『古事記転生』(2)

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「この袋の中に入っている粉を白ウサギさんに塗ってあげ。これはナムチが大切に持っていたガマの花粉やから」

「なんだ!? 白ウサギさん、今何か言った?」

「な、なんだよ、何も言ってないよ。急に大声出さないでくれよ! オイラ耳がいいからビックリするんだよ」

「ごめんごめん! えーっと、この脳内に響く感じと関西弁はもしかして……タマちゃん!?」

「せや。ワシやで」

声の主は、あの関西弁のタマちゃんだった。

「ちょっとタマちゃん、どこ行ってたんだよ。それにしてもこの袋は一体? なんか、漢方薬みたいな匂いがするけど……?」

「早くそこの白ウサギさんにその粉を塗ってあげ。すぐに良くなるから」

「わかったよ、タマちゃん。白ウサギさん、この粉はガマの花粉っていってね、体に塗ると良くなるみたいだから、塗ってあげるよ」

俺はタマちゃんの言うとおりに、腰の袋から光る粉を取り出して瓢箪をシェイカー代わりに水と混ぜて塗り薬にして塗ってあげた。

「うわぁ、なんだかスースーして気持ちがいいよナムチ。いや、ナムチ様! 君はなんていいやつなんだ! これからは一生ナムチ様って呼ぶね」

「様づけとかやめてよ、くすぐったい! ナムチでいいよ」

「君は本当にいいやつだなぁ! ナムチみたいな男こそ、ヤカミヒメと結婚すればいいのに」

「もしかして、ナムチはヤカミヒメと結婚したいの?」

ヤカミヒメって、タケルたちが結婚したいって言ってた人だ。

「え、今なんて? もしかしてヤカミヒメと知り合いなの?」

「それはもうバリバリの知り合いさ。オイラたち白ウサギ一族はずーーーーっと昔はこの因幡国に住んでいて、ヤカミヒメのご先祖様に仕えていたのさ。古い一族同士の約束を果たすために、オイラはこの因幡国にわざわざやって来たってわけ」

「へぇー。その約束ってなんなの?」

「それはね、『太陽と月が重なってお昼なのに真っ暗になったとき、ご先祖様がお世話になったヤカミヒメの一族を助けに行け』って言い伝えがあるんだよ。詳しいことはオイラもよくわからないんだけど、時代が変わって争いごとがたくさん起こるようになるんだってさ」

「ふーん……なんか物騒な言い伝えだね」

『古事記転生』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

白ウサギの話を聞いていたら、今このタイミングで彼と会えた幸運を感じて、少しだけ気持ちが楽になった。白ウサギはこの国にも詳しいだろうし、タケルたちに置いていかれて、どこに行けばいいかわからなくなっていた俺にとっては、今や白ウサギだけが頼りだ。

「オイラ、ヤカミヒメに会うためにここまで来たんだ。国を出発する前にも何度も渡り鳥を通じてやり取りをしていてね。……もしかして、ナムチはヤカミヒメと結婚したいの? あっ、その顔はどう見ても結婚したいって顔だね。わかった。オイラが『とんでもなくいい男がいる』ってヤカミヒメに伝えてくるよ!」

「いやいや、そんなこと1ミリも言ってないじゃないか! すごい勢いで話進めるね君は……そもそもヤカミヒメのことは全然知らないし──」

「わかったわかった、とにかくナムチはヤカミヒメと結婚したいんだね! じゃあ、ひと休みしたらオイラと一緒に行こう。言い忘れてたけど、オイラの名はハクト。よろしくね!」

「あ、ありがとうハクト。話は全然通じてない気がするけど、どうせ行くあてもないし、とりあえず一緒に行こうか!」

(9月18日の配信の次回に続く)

サム(アライコウヨウ) 神話系YouTuber「TOLAND VLOG」の語り手

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さむ(あらいこうよう) / Sam(Arai Kouyou)

名古屋市大須で活動する神話系YouTuber「TOLAND VLOG」の語り手。大阪府出身。「世界の謎はあなたのすぐそばにも存在している」をテーマに神話や世界の歴史を中心に動画を発信。名古屋市大須で「CAFE TOLAND」やBARを経営しており、日本各地の地域おこしや野外フェスなども手掛ける。独自のクラウドファンディングサービスも運営。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事