「この袋の中に入っている粉を白ウサギさんに塗ってあげ。これはナムチが大切に持っていたガマの花粉やから」
「なんだ!? 白ウサギさん、今何か言った?」
「な、なんだよ、何も言ってないよ。急に大声出さないでくれよ! オイラ耳がいいからビックリするんだよ」
「ごめんごめん! えーっと、この脳内に響く感じと関西弁はもしかして……タマちゃん!?」
「せや。ワシやで」
声の主は、あの関西弁のタマちゃんだった。
「ちょっとタマちゃん、どこ行ってたんだよ。それにしてもこの袋は一体? なんか、漢方薬みたいな匂いがするけど……?」
「早くそこの白ウサギさんにその粉を塗ってあげ。すぐに良くなるから」
「わかったよ、タマちゃん。白ウサギさん、この粉はガマの花粉っていってね、体に塗ると良くなるみたいだから、塗ってあげるよ」
俺はタマちゃんの言うとおりに、腰の袋から光る粉を取り出して瓢箪をシェイカー代わりに水と混ぜて塗り薬にして塗ってあげた。
「うわぁ、なんだかスースーして気持ちがいいよナムチ。いや、ナムチ様! 君はなんていいやつなんだ! これからは一生ナムチ様って呼ぶね」
「様づけとかやめてよ、くすぐったい! ナムチでいいよ」
「君は本当にいいやつだなぁ! ナムチみたいな男こそ、ヤカミヒメと結婚すればいいのに」
「もしかして、ナムチはヤカミヒメと結婚したいの?」
ヤカミヒメって、タケルたちが結婚したいって言ってた人だ。
「え、今なんて? もしかしてヤカミヒメと知り合いなの?」
「それはもうバリバリの知り合いさ。オイラたち白ウサギ一族はずーーーーっと昔はこの因幡国に住んでいて、ヤカミヒメのご先祖様に仕えていたのさ。古い一族同士の約束を果たすために、オイラはこの因幡国にわざわざやって来たってわけ」
「へぇー。その約束ってなんなの?」
「それはね、『太陽と月が重なってお昼なのに真っ暗になったとき、ご先祖様がお世話になったヤカミヒメの一族を助けに行け』って言い伝えがあるんだよ。詳しいことはオイラもよくわからないんだけど、時代が変わって争いごとがたくさん起こるようになるんだってさ」
「ふーん……なんか物騒な言い伝えだね」
白ウサギの話を聞いていたら、今このタイミングで彼と会えた幸運を感じて、少しだけ気持ちが楽になった。白ウサギはこの国にも詳しいだろうし、タケルたちに置いていかれて、どこに行けばいいかわからなくなっていた俺にとっては、今や白ウサギだけが頼りだ。
「オイラ、ヤカミヒメに会うためにここまで来たんだ。国を出発する前にも何度も渡り鳥を通じてやり取りをしていてね。……もしかして、ナムチはヤカミヒメと結婚したいの? あっ、その顔はどう見ても結婚したいって顔だね。わかった。オイラが『とんでもなくいい男がいる』ってヤカミヒメに伝えてくるよ!」
「いやいや、そんなこと1ミリも言ってないじゃないか! すごい勢いで話進めるね君は……そもそもヤカミヒメのことは全然知らないし──」
「わかったわかった、とにかくナムチはヤカミヒメと結婚したいんだね! じゃあ、ひと休みしたらオイラと一緒に行こう。言い忘れてたけど、オイラの名はハクト。よろしくね!」
「あ、ありがとうハクト。話は全然通じてない気がするけど、どうせ行くあてもないし、とりあえず一緒に行こうか!」
(9月18日の配信の次回に続く)
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