「ナムチ様、お待ちしておりました」
「あ、急に帰ったな! まだ聞きたいことがたくさんあるのによぉ」
「さっきからうるさいよ! 急に大声出すなって言ったじゃんか!」
「あれ? ハクト、戻ってきたのか!」
「少し前からいたよ。それなのにナムチったらブツブツ呟きながら考え込んでるんだもんな、参っちゃうよ」
「ごめんごめん。それで、戻ってきたってことは……?」
「そうそう、ヤカミヒメに事情を話したんだよ。そうしたら、どうしても君に会いたいんだってさ。さぁ、一緒に行こう!」
「へ? そんないきなり?」
頭の中がとっ散らかったままハクトに導かれてしばらく歩くと、目の前に立派なお宮が現れた。この建物はなんだろう? 大きな……神社……?
「ナムチ様、お待ちしておりました」
目の前には可憐さと儚さを兼ね備えた、見たこともない清らかなオーラを放つ女性が佇んでいた。こういう人を「女神」と呼ぶのだと、俺は直感で理解した。
「うわっ、びっくりした! あ、あなたは……?」
「ナムチ、失礼だよ! このお方がヤカミヒメ様だよ」
「この人が……ヤカミヒメ?」
「はい、ナムチ様。ハクトのお話通り、精悍で素敵なお方ですね」
そう言うと、ヤカミヒメは頬を赤らめた。ハクトは「オイラがバッチリプレゼンしといたぜ」みたいな顔して、誇らしげにこっちを見ている。
それにしてもなんだこの感じ? いきなりめちゃくちゃいい雰囲気なんですけど! もしかしてこのナムチ、本当はイケメンなのか? そして、これはガチで結婚する流れ!?
「これはこれは、ヤカミヒメ様ではありませんか。ようやくお会いできましたな」
ヤカミヒメに見惚れていると、背後から聞き覚えのある野太い声がした。振り返ると、大勢の男たちがお宮の前にゾロゾロと集まっていた。タケルたちだ!
「あいつら、傷だらけのオイラに海水を勧めたやつらだ!」
「おやおや、あのときの白ウサギちゃんじゃありませんか? 傷がちゃんと治ったようで安心しましたよ。ガッハッハ! それにしても、弱虫ナムチがなんでこんなところにいるんだ? お前には重たーい荷物を持たせてノロノロ歩かせていたはずだが?」
ハクトと俺を挑発するタケルを見て、さっきまで穏やかだったヤカミヒメの表情が別人のように変わった。
「無礼者! ナムチ様はこれより、わたくしの夫となる存在である。八十神たちよ、そなたたちは親愛なるハクトを虐げたと聞いています。お下がりなさい!」
「はるばるやって来たワシらを差し置いて、よりによって愚かなナムチと結婚とは! 許せぬ!」
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