タケルとの付き合いは、わずか1日。だけど、俺にはわかる。俺やハクトにあれだけの意地悪をしてきたやつだ。きっと何か企んでいるに違いない。もし本当に謝りにきてたらかわいそうだけど、面倒くさいことは極力避けたいしな……。そう考えていると、部屋の外から従者の悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃーーーー!」
「えっ、どうした!?」
急いで部屋を出て、屋敷の外を見ると、従者は屈強な八十神たちによって倒され、無残にも横たわっていた。八十神の中から一際大きな男が前に出てくる。タケルだ。
「クックックッ……弱虫ナムチよ! お前、ヤカミヒメと結婚できたから図に乗っておるな。居留守を使うとは、舐められたものよ。幸いこの屋敷は婚姻の儀式の準備で手薄になっておるからな、強行突破させてもらったわ。ワシの詫びを聞き入れていれば死なずに済んだものを……お前は不慮の事故で死んだことにさせてもらうぞ! ガッハッハ!」
「ちょっと待っ……うぐぅ!」
俺は背後から忍び寄っていた八十神たちに羽交い締めにされると、あっという間に屋敷から連れ出されてしまった。
「うぐぐ……ごめんて! ヤカミヒメとの結婚も辞退するから許してよ!」
「いーや、許さん! そもそもヤカミヒメがお前を結婚相手に選んだ時点でワシらの心はズタボロだ。お前にはそれ相応の苦しみを与えてあの世に送らねば気が済まんのだ!」
「そんな理由で弟を殺すのかよ! お前らどうかしてるよ。おい、いいから離せって」
「『そんな理由』だと?」
「お前のせいで全て台無しだ!」
漫画のように「ギロッ」という効果音が聞こえてきそうなほど、タケルの目つきが鋭くなった。俺は蛇に睨まれたカエルのように体が硬くなり、身動きが取れなくなった。
「おいコラ! ナムチよ、お前よくそんなことが言えるな。ワシらがどんな気持ちでこの旅をしてきたと思っているのだ? 祖国で王位を継げなかったワシらの千載一遇の好機だったんだぞ!? 誰か一人でもヤカミヒメと結婚できたら因幡国の王族になる予定だったのに、お前のせいで全て台無しだ!」
「いや、どんな逆恨みだよ。故郷の国から出て因幡国で結婚する気なら、わざわざ俺を連れて行かなくてもいいじゃないか! それに、俺の兄なら俺が結婚しても王族になれるんだろ?」
「うるさいうるさい! 特別扱いされていたお前がずっと気に食わなかったのだ! 他の兄弟も同じ気持ちよ。お人好しのお前に皆の荷物を運ばせ、ワシがヤカミヒメと結婚できた暁には一生奴隷として飼ってやるつもりだったのだ。まぁ、計画が狂った今となってはここで殺すのだがな。……よしよし、このあたりだな! おい、皆のもの準備はいいか?」
「兄者、こちらの準備は万全だ!」
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