八十神たちの息のあった野太い声が聞こえる。準備? 一体何が起きるっていうんだ?
「ナムチよ、あれを見よ!」
タケルが指差す先には、小高い丘があり、そこには熱を帯びて真っ赤に輝く3メートルほどの大岩があった。
「え、ちょっと! あれどうすんの? まさか……」
「いかにも。あの熱々の大岩を今からお前にぶつける」
「そんなことしたら焼け焦げて死んじゃうよ!」
「少々手荒な方法になったが、お前にはここで死んでもらう! さぁ、皆のもの。大岩をナムチにぶつけるのだ!」
俺を羽交い締めにしていた八十神たちが離れると、俺の足首と地面は固い紐で結ばれ、両手も縛られていた!
「あ、足が全く動かない……助けてくれー!!」
「最後にホンマの気持ちに〝自分で気づけた〟やんか」
ゴロゴロゴロゴロ……!
真っ赤に熱せられた大岩がすごい勢いで迫ってくる。恐怖に耐えられず、目を開けていられない。
あぁ、俺は『古事記』の世界でも死ぬんだな。前の世界でも殺されて、こんなわけのわからない世界でも殺される。俺はとことんツイてない人間だな。
もし、もう一度人生をやり直せるなら。こんなくだらない嫉妬なんかで殺される人生は嫌だ……。
思えば俺もタケルのように、他人に嫉妬してばかりの人生だった気がする。そっけないけどなんでもできる兄貴に嫉妬して、いつも素直になれなくて。本当はバーの仕事を一緒に楽しみたかっただけなんだけどなぁ。もっと毎日を……って、あれ?
俺は死を目前にどんだけ考えるんだ? 大岩はどうなった? あ、これが走馬灯ってやつか?
変に冷静になったタイミングで目を開けると、眼前すれすれに大岩があった。終わった! 今度こそサヨナラだ。
ドカーーーーーーーーーン!!
「……ぉ~……ぃ」
「ん? なんだ?」
「……おぉ~い!」
遠のく意識の中で誰かの声が聞こえる……。
「おぉ~い、サムよ。最後にホンマの気持ちに〝自分で気づけた〟やんか。戻ったらその気持ち、素直に伝えるんやで」
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