「この世界の大原則を一つ教えとくわ」
こうして俺は、喋る白ウサギ・ハクトとともに因幡国のヤカミヒメに会いに行くことになった。ハクトは一族に伝わる秘密の近道を知っているらしく、半日ほど歩いたら奇妙な形をした建物がぽつぽつと見えてきた。高床式住居ってやつだろうか。どうやらここが因幡国の中心都市らしい。
「タケルたちは、まだ来てないのか?」
「タケルたちってのは、あの嫌な連中かい? あいつらもヤカミヒメを狙ってるの?」
「みんな口を揃えて『絶対に俺がヤカミヒメと結婚する!』って言ってたよ」
「なにー!? あんな極悪なやつらと可憐なヤカミヒメが結婚なんてダメダメ。絶対にダメだ! オイラは優しいナムチがヤカミヒメと結婚するべきだと思う。オイラが今からヤカミヒメに直接言ってくるから、ここで待ってて!」
ハクトは俺の返答も聞かずに、4本の足を使ってものすごいスピードで走っていくと、あっという間に見えなくなってしまった。
仕方がないから、近くにあった岩に座ってみる。急に一人になったからか、俺を取り巻く異様な状況への焦りが出てきた。
全く知らないヤカミヒメと結婚するのか?
元の世界に戻れるのか?
そもそもワタリさんに刺された俺の体は、元の世界でどうなってるんだ?
あのとき、確かに俺は死――
「大丈夫! サムの元の肉体はまだ滅んでへんよ」
「うわ、タマちゃん! いきなり話しかけるのやめてくれよ。それより肉体が滅んでないってことは、俺は生きてるってこと!? どうやったら元に戻れるんだ?」
「そやね。現代のサムの体は確かに滅んではないけど、そう簡単に戻ることはできへんねん。サムにはこの時代で乗り越えないとあかん試練があるんや」
「試練ってさっきも言ってたな。一体何をすればいいんだよ?」
「それに直接答えることはできへんねん。ちょうどいい機会や。この世界の大原則を一つ教えとくわ。それは、〝自分で気づく〟ってことやねん。どっかのすごい人に答えっぽいことを教えてもらってわかった気になってもな、ホンマは全く意味がないねん。自分が体感して、心から気づく。これしか次のステップに進む方法はないねん。そんで、そこをクリアしないと人生の中で何回も似たようなピンチが起こるんやで。わかる?」
ノリが軽い話し方はそのままに、タマちゃんは急に「この世界の大原則」とやらを説いてきた。自分で気づく? 似たようなピンチが起こる?
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