「んん~? なんか難しいな……」
「『似たようなピンチ』で思い当たる節はないか?」
「そうだな……今まで付き合ってきた彼女には毎回同じような理由でフラれてたような……? 友だちと喧嘩別れするときも大体同じパターンだったかも! これは俺が何かに気づいてないから似たようなピンチを繰り返してるってこと?」
「サムにしては珍しく察しがええやんか。これらは全て〝メッセージ〟なんや。何かの歌でもあったやろ? 目にうつることはメッセージゆうてな。それはご先祖さんとか目に見えない存在が総動員でサムにヒントを与えてるっちゅうことや」
「へぇー! 映画の『インターステラー』でも似たような話があったなぁ。面白い話だけど、まだいまいち信じきれないような……」
「アホゥ! こんだけ不思議な体験してて今更何言うてんねん。これはもうヒントやなくて〝ほぼ答え〟や。ワシがあとで怒られるレベルのな。ちなみに毎回浮気されて彼女にフラれたり、似たような理由で友だちと喧嘩別れしたりするとき、サムはどんな風に思うんや?」
「なんで浮気されたこと知ってるんだよ!」
「そこは今はええやろ。さ、どんな風に思ってるんや?」
「えー、なんだろ? 基本ムカついてるかな……。『なんでわかってくれねーんだよ、バーカ!』みたいな気持ち。あとは友だちに愚痴言って酒飲んで忘れる! 向こうの都合だから俺は悪くないし……」
「おいおい、結構ヤバいやつやなサムは……まぁ、自分で発散できてるだけまだマシか……」
これだけ話してもタマちゃんの姿は見えない。見えないけど、呆れられてることだけは声色だけでも十分に伝わってきた。
「陰と陽はどっちも大切なんだ」
「サム、〝陰陽太極図〟ってわかる? 白と黒の勾玉を組み合わせたようなデザインのやつなんやけど」
「あぁー、なんか見たことある! こういうやつだよね。それがどうしたの?」
俺は近くにあった木の棒で地面に陰陽太極図を描いた。うろ覚えだったけど、母ちゃんが実家の壁に飾っていたからスラスラと描くことができた。
「これはな、白が〝陽〟を表していて、黒が〝陰〟を表してるねん。万物は全て陰と陽に分けられるってことやな。サムの世界やったら〝陰〟っていう言葉はあんまりいいイメージないかもしれんけど、あらゆるものは陰と陽のバランスによって成り立っていて、どちらもなくてはならないものやねん」
「白が陽、黒が陰か。忘れないように書き足しておこう。……こういうことだな。陰と陽はどっちも大切なんだ……」
「そうやで。そんで黒い勾玉みたいな形の中にも小さい白い点があって、白い勾玉みたいな形の中にも黒い点があるやろ? これは、陽の中にも陰はあるし、陰の中にも陽はあるっていうことを表してるねん。ようできてるやろ? ほとんどの人間は自分の見たくないところや向き合いたくないところを前にしたとき、陰か陽どちらか片方だけの感情で心を塗りつぶしてしまいがちや。だから、その出来事から逃げ出したり、過度に自分を否定したり、誰かを否定したりすることで目を背ける。それでは絶対に成長できへんねん」
「うぅ……なんか耳が痛いぞ……」
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