喋る白ウサギの次はワニ……。完全におとぎ話のノリじゃないか。そもそも昔の日本にワニなんているのか?
「オイラは元々、ここから海を隔てたずーっと遠いところに住んでたんだけどさ。どうしても因幡国に来たくてね。因幡国の近海に住むワニたちに、ある勝負を持ちかけたんだよ」
「ふんふん……それでそれで?」
勝負は白ウサギの提案で始まったらしい。
まず、ワニ一族の1匹を呼び寄せて白ウサギはこう言った。
「オイラたち白ウサギ一族と、お前たちワニ一族。どっちの数が多いか勝負しないか?」
ワニ一族が勝負に興味を示すと、白ウサギはこう続けた。
「まず、オイラがお前たちワニ一族の数を数えるから、向こうに見える島に向かって順番に並んでくれ。オイラがワニたちの背中をピョンピョン飛んで数えていくから、その次にオイラたち白ウサギ一族を数えてくれ」
「ワニたち単純だからさ、すぐに勝負に乗ってくれて、元いた国の海岸からこの国の海岸までズラーッと並んでくれたんだよ。それでオイラはワニたちの背中を渡って、この国に来られたんだ」
「ちょっと待って、それって数比べ勝負になってないよね? 白ウサギ一族って言ってもここには君しかいないし、君が陸に上がったらワニたちは数えようがないじゃないか」
「あ、やっぱり気づくよね」
「この国まで来たかったから、ワニたちをだましたってこと?」
「……まぁ、簡単に言うとそうなるね……」
「コイツらだまされてやんのー!」
バツが悪そうに白ウサギが言った。白ウサギのずる賢さに呆れながらも、俺の頭には1つの疑問が浮かんでいた。
「それじゃあ、君はいつ皮を剥がれたんだ?」
「それはね、オイラが“耐えきれなくなった”からなんだ……」
「耐えきれなくなった?」
「そうさ。ワニの背中をピョンピョン飛び跳ねていたら、こう……ププッと笑いがこみ上げてきてね……。コイツらだまされてやんのー! って気持ちが抑えきれなくなっちゃって、最後の1匹にこう言っちゃったんだ。『やーい、マヌケなワニどもー! お前らがだまされてくれたおかげで、無事に海を渡ることができたよー!』ってね」
「うわー……最悪じゃん」
「あっかんべーして、お尻フリフリしてたら最後のワニがめちゃくちゃ怒り出してさ。オイラの首根っこを摑んで皮をひん剥いて、すんごい力で放り投げたんだよ!」
「そこにタケルたちが来たのか!」
「そういうことさ。皮をひん剥かれた痛さで泣いてたら、さっきの連中がゾロゾロと現れてさ。『皮を剥かれたときは、海で洗ったらすっかり良くなるよ』って言うからそのとおりにしたら、この有様さ!」
なんだろう……俺も冴えない人生を歩んできた自覚はあるけど、ここまでどうしようもないエピソードを聞くのは初めてだ。「自業自得」といえばそれまでだけど、この傷はさすがにかわいそうだもんなぁ……どうしたもんか。そんなことを考えていると、腰にくくられた袋から光が漏れてきた。
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