日韓に手を結ばせてアメリカが築く中国包囲網 経済まで飲み込む「安全保障」時代の日米韓合意

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一連の過程を振り返ると、尹大統領の主導で日韓関係は劇的に改善した。そしてバイデン大統領の活発な働きかけで日米韓の合意も実現した。

ところが、日本の姿はほとんど見えない。そればかりか、政府内にはすっきりしない冷めた空気が漂っている。

そもそも日米同盟は、日本有事や極東有事を対象とし、1996年の日米安保共同宣言では対象地域をアジア太平洋地域に拡大するとされた。一方、アメリカと韓国の米韓相互防衛条約は、北朝鮮の脅威に対処することが目的の軍事同盟だ。

性格の異なる2つの同盟をどうリンクさせようとするのか。

また日韓間では「拡大抑止」についての考え方など同盟のあり方についての認識の違いや、自衛隊機へのレーダー照射問題など未決着の問題も残っている。

にもかかわらず今回の合意は、精緻な議論もないまま作られている。そんなこともあってか日本政府内には首相出席について反対論も少なくなかったという。

かつては経済摩擦と安保が並存した

それ以上に違和感があるのは、合意文書で政治も経済も含めてあらゆる問題が、軍事や安全保障の概念で語られていることである。

あまり知られていないのだが、「日米安全保障条約」は単純な軍事同盟条約ではない。第2条には「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する」と書かれている。

日本経済が元気だった1990年代まで、日米間では貿易不均衡などがしばしば問題になり、宮沢喜一首相や細川護煕首相のように、輸出制限を求めるアメリカ大統領とやり合って首脳会談が決裂寸前までいったこともあった。

当時、「安保屋」と呼ばれる日米安保を専門とする官僚群は「日米両国が経済摩擦でいくら対立しても心配ない。日米関係は安保分野でがっちり手を組んでいるから万全だ」と豪語していた。

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