「動物と人間が電気柵で共存」サバンナ生活の過酷 南アフリカにみる環境破壊と雇用創出のリアル

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私が働くクルーガーエリアの付近には、南アフリカの中でも特に雇用率の低い地区が存在しています。コロナ禍の影響で、観光業は大打撃を受け、サファリ産業に従事していた人の多くが職を失い、雇用率はより一層低くなりました。コロナ禍以降、食肉を狙った密猟も増加しています。仕事がなく、人々の生活が貧しい状況が続く限り、なかなかこういった密猟がなくなることはないでしょう。

環境保護は地域の人々との連携があって初めて成り立ちます。理想を言えば、手付かずの大自然の生態系を守ることをなによりも優先したいところですが、現実的には産業開発、観光業、環境保護すべての分野が歩み寄り、妥協しながらベストなバランスを探っていくしかないのです。

射殺された1頭のヒョウ

2021年の一時期、グレータークルーガー保護区の周辺エリアで、1頭のヒョウが射殺されたことが話題になりました。このヒョウは、怪我により片目を失っていましたが、それでも立派にサバンナを生き抜いている姿がサファリマニアの中で人気を呼び、有名な存在になっていました。

「フクムリ」というニックネームが付けられ、みんなこのヒョウを一目見たくて、この地域のサファリに来ていたほどです。しかし、どんなヒョウでもいずれ老いてくれば、最盛期の若いオスヒョウとの縄張り争いには勝てなくなっていきます。フクムリも案の定、歳をとるにつれ、自分の縄張りを他のヒョウに奪われ、行き場を失い、村の近くのエリアまで追いやられてしまいました。

そこでフクムリが見つけたのは、ヤギや豚、鶏など、自然に暮らすインパラを狩るよりもずっと簡単に手に入るたくさんの獲物でした。味をしめたフクムリは、夜になると村に入ってくるようになり、短期間で2頭のヤギと豚、さらには番犬まで襲って食べてしまいました。おそらく保護区と村の間の茂みに隠れ、夕暮れ前からずっと狙いを定めた家を観察し、チャンスを窺っては犯行を繰り返していたようです。

村の子供たちはよく家畜を世話するお手伝いをします。このままでは次は子供の命が犠牲になってもおかしくありません。彼らにとっては自分や大切な家族の命に関わる問題です。そこで州の担当チームが動き、最終的にフクムリは射殺されてしまいました。

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