中長期的に見れば、新興国のエネルギー需要の高まりがある。だから、原油価格の上昇は、単に投機的なものでなく、今後も続く可能性が高い。さらに、原子力発電に対する逆風がある。世界各国で原子力発電の見直しが進んでおり、火力発電の比重が高まらざるをえない。
これは全世界的な現象だが、日本においては、特に顕著だ。日本の場合には、ここ数カ月という期間でも、火力発電の比重が顕著に上昇する。東京電力は、今年夏に向けて供給能力の増強を図っているが、その大部分は火力発電だ。
そして燃料単価は上昇している。電気料金には燃料費調整という項目があるので、直ちに料金に反映される。そして電気はすべての経済活動で用いられているため、製品価格に転嫁しやすい。だから、かなりのスピードで消費者物価に波及するだろう。経済が拡大できない中で、インフレが輸入されるのだ。
ところで以上で述べたのは、海外要因だ。これに加えて日本は「巨額の国債」という潜在的インフレ要因を国内に抱えている。だから今の日本の状況は、次のようなものだ。
海外から猛火が迫ってくる。これを防ぐ手立てはない。きわめて危険な火薬庫が国内にあるので、引火して爆発したら大変なことになる。一刻も早くその扉を封印しなければ。それなのに、「扉を開けよ」(日銀引き受けを行え)と叫んでいるマッドサイエンティストがいる。狼狽した政策当局者が、その声に惑わされてしまったら、いったい何が起こるだろうか?
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年5月14日号)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら