仮に、今後1年間同額の赤字が続くなら、2011年度の貿易赤字は6・4兆円程度になる。もっとも、今後生産設備の回復で輸出は増えると考えられるので、実際には赤字は減少するだろう。また、原油輸入量が昨年と同じという仮定も、過大かもしれない(現在は、原油火力よりLNG火力のほうが多い)。しかし、原油価格がすぐに下落するとも思えないので、11年度の貿易収支が赤字になる可能性は否定できない。少なくとも、年度を通じて貿易収支が大きく悪化することは、ほぼ間違いない。
高度成長期以降の日本で、年度を通じて貿易収支が赤字になったことはない(リーマンショックの影響で輸出が落ち込んだ08年度においては、08年11月から09年1月まで連続して赤字になった。しかし、年度を通しての貿易収支は、1兆1591億円の黒字だった)。09年度における所得収支は12兆円の黒字なので、仮に11年度の貿易収支が赤字になっても、経常収支が赤字になることはないだろう。それでも、日本の国際収支構造に大きな変化が生じる可能性は大きいと思われる。
貿易収支の悪化は景気悪化要因ではない
これは、日本経済にとってどのような意味を持つのだろうか?
新聞などの記事では、「貿易収支の悪化が景気の足を引っ張る」という解説になっている。確かに、普通であれば貿易収支の悪化は有効需要の減少を意味するので、国内の生産を減少させる。これは07年から09年の経済危機後の際、顕著に起こったことだ。このときは、主としてアメリカ国内における需要の減少が日本の輸出を減少させ、それが日本国内の生産活動を急減させた(そして09年の春ごろからは、対中国輸出の回復が国内の生産を引き上げた)。
しかし、いま起きていることは、それとは違う。次の2点に注意が必要だ。