第1に、今回の輸出の減少は、大震災による生産設備の損壊という日本国内の事情によってもたらされた。つまり、輸出減が国内生産を減少させるのではなく、国内生産減が輸出を減らしている。因果関係は経済危機のときとは逆だ。
第2に、実質GDPに影響を与えるのは、実質輸出と実質輸入(数量)だ。表でいえば、(1)の要因である。表の(2)は、価格変化の影響なので実質輸入を増やしておらず、実質GDPを減らすことにはならない。
実質輸入と名目輸入の乖離は、これまでも起きたことである。たとえば、02年から07年にかけて、実質純輸出が拡大し、これが実質GDPを拡大させた(これが「輸出主導の経済成長」である)。しかし、この間、名目純輸出は目立って拡大しなかった。それは、原油価格の上昇と円安によって名目の輸入額が増加したためである。
つまり、今後の貿易収支の悪化は、景気悪化要因にはならないのである。実質輸入が増加すれば、日本国内の生産減少を補う効果を持つのである(ただし、そうした変化は3月の貿易統計にはまだ表れていない)。問題は、輸入物価の上昇を通じてインフレが輸入されることだ。
エネルギー価格は中長期的に上昇する
名目貿易収支を悪化させている原油価格の上昇は、前回述べたように、大震災前から継続している現象であり、すでに日本の輸入物価を引き上げている。この原因は、アメリカの金融緩和(QE2)によるドル価値の低下だ。アメリカの金融緩和は、新興国のバブルを引き起こし、また資源価格の高騰をもたらした。これに加えて中東の政治情勢が不安定化したため、原油の産出が減少した。
原油価格は、08年3月から7月ごろにかけて高騰したものの、その後反落し、09年初めには底値に落ち込んだ。その後再び上昇に転じ、10年前半には停滞気味であったものが、10年秋から再び上昇してきたわけだ。