「インフレ課税」で家計は大損するという根拠 日本政府の膨大な借金は、相対的に軽くなる

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もう一方で、給付金を全額国債発行で賄うと、政府債務残高は3兆円増える。政府債務の増減と、民間部門の資産増減はパラレルに動く。同様に、実質価値で見たときは、政府債務残高が2%ほどインフレで減るとき、家計金融資産も2%ほど減ってしまう。こうした国民資産の価値の減少は、増税と同じ効果を持つので、「インフレ課税(Inflation Tax)」と呼ばれる。

このインフレ課税は、債務者には有利である反面、債権者には不利に働く。長期貸付をしている人には特に不利である。そのため、債権者は貸付金にしかるべき金利を適用し、それも期間が長くなるほど高い金利を上乗せしている(期間プレミアム)。

債権者にとって「不利」

国債利回りは、もともとインフレ見通しを織り込む仕組みである。長期国債が10年後に償還されるときの額面+クーポンの金額が、インフレ分を調整して、その時点でどのくらいの価値になるかを計算して、流通価格を決めて取引している。流通価格=割引現在価値になる。 

もっとも、日本の場合は、日銀が国債市場に介入して、流通価格が下がりにくいように、高値で買いまくるオペレーションをすることで、需給コントロールを極端に強めてきた。その結果、長期金利は極端に低下している(流通価格は高値維持)。

この傾向は、2016年9月にイールドカーブ・コントロール(YCC)という仕掛けを作って、10年金利の基準を0%にすることで極まった感がある。つまり、将来のインフレリスクに見合う分を、債権者は受け取れない状態なのである。

反面、日本の投資家は、インフレ課税のリスクに対して、極めて脆弱になってしまっている。超低金利が当たり前という感覚が浸透して、不意打ちのようなインフレに遭遇しても、投資家たちは機敏に動けない。

こうしたインフレ課税には、日銀の金融政策が極めて深く関与している。超低金利によって内外金利差が拡大することが一層の円安を促す。円安が加速するから輸入物価が上がって、消費者物価も上昇する。それでも超低金利を修正しないので、円資産の減価が進んでしまう。

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