「インフレ課税」で家計は大損するという根拠 日本政府の膨大な借金は、相対的に軽くなる

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黒田前総裁は、インフレ課税によって政府債務残高が減価することを知らなかったわけがない。今にして思えば、黒田前総裁は、2022年に消費者物価が上昇し始めてから、「物価上昇は一時的」とか、「賃金が上昇していないので、自分が思っている物価上昇ではない」と言って、利上げ観測を全面的に否定してきた。もしかすると、そうした態度の裏には、インフレ課税を通じて政府債務残高を減価させることを暗に見過ごしていたのではないかと疑ってしまう。

もしも、日本政府自身が、増税や大胆な歳出カットを行って政府債務を減らしにかかったとしたら、その痛みが批判の的となっただろう。政治的反発や国民からの不満も高まったであろう。

それに比べると、インフレ課税は、秘かに円資産の価値を減価することができる。政府債務残高も、気づかれないうちに重さが軽くなっていく。国民は、自分たちの円資産の購買力が徐々に消えてしまうことに意識を向けにくい。

しかも、円資産を持っている限りは、国民が逃れることが最も難しいかたちの課税方式である。債務者は秘かに得をして、債権者は何も動けないままに損失を被ってしまう。財布の現金や、預金通帳の数字に何も変化が起こらないのに、こっそりと購買力を失っていくのがインフレ課税の怖さだ。

ケインズが説いた、インフレ作用と財政問題の深い洞察

こうした効果について、詳細に過去の分析を進めたのは、20世紀の偉大な経済学者ジョン・M・ケインズ(1883~1946)である。1923年に出版された『貨幣改革論』では、インフレ作用と財政問題について深い洞察が示されている。正直に告白すると、筆者はケインズのアイデアを下敷きにして、本書を書いている。ちょうど100年前の巨人の肩の上に乗って、インフレの影響について見通すことができるのだ。

ケインズが指摘しているのは、インフレが富の分配を変えてしまうことである。新しく価値を創出できる企業家(実業階級)はインフレの中で得する機会を得る。反対に、貯蓄者(投資階級)は過去の所得から蓄積された富をインフレで失う。これは、債務者が得をして、債権者が損をするのと同じ意味である。

さらに、ケインズの著作は、もっと建設的に私たちが何をすればよいかを教えてくれる。

インフレ課税から逃れるには、たとえ借金をしてでも積極的に投資をして、新しい価値を創出することが重要だという教訓を示している。

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