ニューヨークやリオデジャネイロのような大都市では騒音が常に住民の苦情リストの上位を占めるのも無理はない。
そして、音量のレベルの観点からこの課題を考えるだけで済むわけでもない。データ保管センターや空港の高周波と低周波のブーンという音が害を及ぼすこともよくある。こうした形態の聴覚騒音は、中所得と低所得のコミュニティに対して不釣り合いなまでに大きな影響を与える。
地球の自然生態系の少なくとも3分の1が「聴覚絶滅」と呼べるほどまで静かになってしまった時代にあって、それ以外のあらゆる種類の音――機械が立てる音、デジタル機器が立てる音、人間が立てる音――は増幅している。
増加する「情報騒音」
増加している騒音には、別の種類のものもある。「情報騒音」だ。
2010年、当時グーグルのCEOだったエリック・シュミットは、はっとするような推定をした。「今では私たちは2日ごとに、文明の夜明けから2003年までに生み出したのと同じだけの情報を生み出している」
このテクノロジー業界の大立者は主に、オンラインコンテンツの急激な増加について考えていたのだが、人類史がたどってきた道筋についての根本的な事実を言い当てていた。すなわち、人の注意を引こうとする精神的な刺激が、ますます増えているという事実だ。
テクノロジー市場調査会社のラディカティグループは、2019年には毎日1280億通のビジネスメールが送信され、平均的なビジネスユーザーは1日当たり126通のメッセージを処理していたと推定している。
最新のデータによれば、アメリカの人は1986年の5倍の情報を入手しているという。
私たちは、これほど多くの情報を扱えるのだろうか? 人間の注意を対象とする科学の一流専門家たちは、「ノー」と言っている。
「フロー」の概念について最初に書いた心理学者のミハイ・チクセントミハイは、私たちの日常的な注意の容量の欠点を要約している。