炎上「バービー」日本人も見る価値アリと言える訳 「理想の女性」含めポリコレの監視の中どう描いたか

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(画像:「バービー」公式サイトより)

さて、肝心の作品についてだが、「日本人にとっても十分見る価値のある作品だ」と最初に言っておこう。

本作が「フェミニズム映画」であることは報道でも目にしていた。実際に見てみると、たしかにフェミニズム色はかなり強いが、「価値観の押し付け」をすることなく、ジェンダー問題を風刺しつつもコメディとして昇華されており、素直に楽しんで見ることができた。

バービー人形は、元々はスリムな「理想の女性」の体形をしており、女性の体を性的対象として見たものとして批判に晒されてきた。一方で、映画でも描かれているように、これまで、宇宙飛行士、大統領、医師など、さまざまな職業のバービー人形が発売されており、女性の社会進出を応援してきたという歴史もある。さらに、2016年からは、さまざまな肌の色や体形をした新シリーズも発売しており、「ダイバーシティ&インクルージョン」に対応してきた。

このバービー人形の二面性、あるいは両義性は、映画の中でも巧みに描かれているが、それが本作に単純なフェミニズム映画、コメディ映画にとどまらない深みを与えている。

また、作品中には下ネタや強烈な皮肉など、どぎつい表現が要所要所に見られるが、それがファンタジックな映像世界と絶妙に融合し、大人でも十分に楽しめる内容になっている。少なくとも吹き替えや字幕で見せる限りは、子どもに見せても問題ない作品なので、親子で鑑賞してもいいだろう。

バービーの世界観やアメリカ社会を理解していないと、わかりづらいところがあるのも事実だが、それらを加味しても、日本人でも十分楽しめるし、共感できるところも多々ある映画であることは間違いない。

『バービー』はポリコレ問題をどう処理したか?

本年5月にアメリカ本国で公開(日本公開は6月)された実写版『リトル・マーメイド』は、主人公の人魚アリエルを黒人のハリー・ベイリーが演じ、賛否両論が湧き起こったが、現在のハリウッドはポリコレ(ポリティカル・コレクトネス(political correctness);「政治的正しさ」のこと)のジレンマに陥っている。

人種やジェンダーだけでなく、最近は容姿の多様性にも配慮する必要があり、「自由な表現」が難しくなっている――という状況がある。

映画『バービー』が秀逸であるのは、現代のポリコレ的な状況を逆手にとって、コメディとして昇華させている点にある。

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