炎上「バービー」日本人も見る価値アリと言える訳 「理想の女性」含めポリコレの監視の中どう描いたか

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(画像:「バービー」公式サイトより)

バービーが住む「バービーランド」では、さまざまな人種、さまざまなファッション、さまざまな体形のバービー、あるいはケン(バービーの恋人)が同時に存在している。そのために混乱が生じたり、白人のケンがアジア系のケンに押され気味になったりと、ポリコレの実態が戯画的に描かれていたりもする。

アメリカ社会は、日本以上にポリコレに厳しいと言われているが、一方で、その枠内での表現の自由は最大限に尊重されるし、風刺や皮肉についても寛容に受け入れられているように思える。

バービー人形の発売元のマテル社の描き方についても、「よく会社側がこの描写を許容したな」と思えるようなシーンが多数見られる。

『バービー』は毒舌的な作品ではあるが、その背後にはさまざまな配慮がなされているように見受けられる。ポリコレのジレンマの中で、制作者側は各所に十分な配慮をしつつも、そこからうまく発想を広げて、観客の共感が得られるような作品として仕立て上げることに成功していると言えるだろう。

筆者自身、この映画を十分に楽しみ、考えさせられたが、それだけに、公開前の炎上事件を振り返ってみて、非常に残念に思う次第である。

改めて「炎上事件」を振り返る

映画『バービー』の日本での炎上事件の発端は、アメリカ本国で「Barbenheimer(バーベンハイマー)」がSNSで話題化したことによる。

これは、北米でこれまで語ってきた『バービー』と、”原爆の父”と呼ばれる物理学者の伝記映画『オッペンハイマー』が同日公開されることから、「両作品を一緒に見よう」という趣旨で盛り上がったムーブメントだ。

「Barbenheimer」が盛り上がった背景には、両作品の配給会社は異なるどころかむしろライバル関係にあったこと、コロナ禍で映画産業が危機的な状況にあった後での大型作品の同日公開であったことなどがある。しかし、このムーブメントはあくまでも自然発生的に起こったもので、制作や配給側が仕掛けたものではない。両作品のストーリーや世界観に共通するものがあるわけでもない。

SNS上で「Barbenheimer」が盛り上がりを見せる中、両作品をテーマにした「面白画像」が多数投稿され、拡散するという現象が起きた。そうした中で、原爆とバービーをコラージュした画像も大量にSNS上に出回るようになったのだ。

被爆国の日本でこのようなことが起こることは考えにくい。他国において、このような現象が起きてしまうことも好ましくはないが、上記の現象だけであれば、日本国内で大きく問題視されることはなかったと思われる。

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