米国流「政策立案の技法」で考える「人口減少」対策 問題解決を「成果」につなげる8つのステップ

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こうした際に有効なのは感度分析である。上記の分析で、100人に支援して1名しか就職者数が純増しないとした場合に、成果予測がどう変化するか試算するとよい。この場合、費用は変わらず約450万円であり、将来の税収増効果は現在価値換算で430万円~720万円となる。100人支援して1名でも就職者が増加すれば、費用よりも税収増効果が上回る可能性が高いという計算になるので、政策の効率性(費用対効果)という観点では、その点の確からしさについて考えればよいことになる。

ステップ6:トレードオフに立ち向かう

アウトカム・マトリクス(成果表)が作成できたとして、どの政策オプションを推奨すべきか。「どの観点から見てもこれがベストだ」という政策オプションがあればよいが、そうした明らかに優れた政策オプションが見当たらない場合は、どういう観点を重視するかで推奨すべき政策が変わってくる。

上述のオプションの場合、大学の定員増加は大きな財源を要する。また、一旦定員を拡大すると継続的に財源を消費する可能性が高く、財政の硬直化につながる可能性もある。

また、大学の定員増には関係機関との調整や教員の確保、施設の整備なども必要であろうし、実現可能性の観点からも検討が必要となる。特に、厳しい財政制約がある場合には、すぐには着手できない政策であろう。

一方で、定員の増加が定住者増加につながる可能性は高いと考えられ、定住者増という観点で見た場合は確度が高い政策であるとも考えられる。

次に、帰郷費用の補助の場合、必要な財源は小さく、また、成果が上がらなければ中止することも容易である。他方で、この政策をとった場合の政策効果には不透明さがある。また、こうした政策をとってもとらなくても毎年一定の学生は帰郷して就職しているであろうから、「無駄遣い」という批判を受けるリスクもある。

ステップ7:分析を止め、決定!

政策立案は、一定の時間軸の中で行われる。結論が出るまでずっと分析を続けていてよいというものではない。期日から逆算して、その中で何らかの意味ある結論を出すことが求められる。

「8つのステップ」が開発されたカリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院のプログラムでは、課題を与えてから48時間以内に政策立案のレポートを書くという訓練があった。

「8つのステップ」は、「正しい政策」を立案することを目的に開発されたものというよりも、時間的制約などがある中で、なるべく少ない手戻りで、効率的に政策立案を行えるようにするためのノウハウを提供するものである。

県庁からの依頼についても締め切りがあり、筆者らのグループは、2つの政策オプションのうち、必要な財源が小さい帰郷費用の補助をすぐに着手できる政策として推奨することとした。

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