米国流「政策立案の技法」で考える「人口減少」対策 問題解決を「成果」につなげる8つのステップ

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ステップ5:成果を予測する

政策は、未来に何らかの変化をもたらすことを目的として行うものだ。「8つのステップ」では、ある政策をとったときと何もしなかったときで、未来がどのように変わるのか予測した上で、どういう未来がどのような観点で望ましいかを説明することになる。

この、未来を予測するという部分が、政策立案のプロセスでは最も難しい作業となる。必ず的中する未来予測というものはなく、予測は多かれ少なかれ外れるものだ。他方で、政策を決定するときにはいずれにせよ将来に向けた判断を行うことになるため、意思決定に役立つ判断材料を少しでも良質な形で提供することが求められる。

・大学定員を増加させる場合の費用と効果

県内大学の定員を増加させる場合、どれぐらいの費用が必要だろうか? 同県の公立大学の予算を見ると、一学年400人程度の定員の大学で、年間費用は40億円程度になっている。収入を見ると、授業料収入は10億円で、運営費交付金は25億円程度。単純計算で言えば、一学年の定員を1人増加させると、年間600万円程度の支出が県にとって必要になる計算になる。100人増加させようとすると、年間6.2億円程度の支出増が必要と試算される。

では、効果はどのように見積もるべきだろうか? 同県の県内GDPを生産年齢人口(15歳~65歳)で割って1人あたりの金額を計算すると、年間約790万円となる。生産年齢人口が1人増加するごとに県内GDPが比例して増加するとは限らないが、単純化のために毎年一定のGDPが増加するという仮定を置く。県内の公立大学の定員を100人増加させたとして、そのうち8割の学生が県内にとどまった場合、同県のGDPが今後40年近くにわたり年間6.3億円ずつ増加すると試算される。

この増加額について、割引率を用いて現在価値換算した場合、割引率5%の場合は約113億円、割引率10%のときは67億円となる。

GDPのうちの労働分配率を5割、住民税の税率を10%と仮定すると、同県の自治体が将来にわたって得る住民税収入は、現在価値に換算して割引率5%のときに5.6億円、割引率10%のときに3.3億円となる。ただし、住民増加に伴って、自治体の経費も増加するので、この税収増は割り引いて考える必要があるだろう。

一方、住民増加のメリットを税収増だけで捉えるのは保守的な見積もりに過ぎるとも考えられる。経済活動の拡大などを考えれば、GDP増加額の一定割合をメリットとして計算に入れることも考えられるだろう。

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