2023年のノーベル経済学賞は、労働市場の男女格差に改めて目が向くきっかけとなったが、もう一つの側面として、経済学の研究方法についても考える機会とするよう提起するのが神林龍・武蔵大学教授だ。
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――ゴールディンが男女格差の変遷を200年以上の長期で描き出したような経済史の分野では、精緻さが足りなくても仕方がない、とはならないのですか。
本来、経済史はそのようなスタンスであるべきだと自分は思いますが、経済史研究は今、因果推論(注)に染まりつつあります。たまたま歴史的事象に自然実験(注)とみなせるデータがあったので因果推論を応用した、という研究スタイルです。
――ゴールディン受賞は、経済史分野に関係する久々のノーベル賞でもあり、経済史の重要性が再認識されるのでは。
経済史という研究分野が重要不可欠なのは、それは自然実験の宝庫だからでしょうか。むしろ「なぜそんな自然実験ともとれる事象がそのときその場所で起きたのか」を深堀りしてこその歴史研究なのではないか、と古い世代の研究者としては考えてしまいます。
やはり経済史は、「社会はどのように発展するのか、何を持って発展と捉えるのか」という社会科学的な議論を構築するうえで有用なものとしてあるのではないでしょうか。
このままではこういう意味での経済史が、経済学研究から消えてしまう可能性もあると危惧しています。
岐路に立つ経済学
――今回のノーベル賞受賞は、ゴールディンのような研究手法が見直されるきっかけとなりますか。
願望としてはそう思います。でも事実としては厳しい。
ノーベル賞を受賞するのは通常、経済学者であれば誰でも知っている研究者です。でも、ゴールディンのことは、確かに全米経済学会の会長でしたが、ジェンダーに関心がなければ、若い世代の経済学者はよく知らないのではないでしょうか。
男女格差については、ゴールディンの受賞をきっかけに、現実社会でかなり動きが起きると思います。といいますか、起こってほしい。男女格差は仕方がない、というこれまでの発想は消えてなくなり、基本は不合理なものだという考えが広がっていってほしいと思います。
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