2023年のノーベル経済学賞は、労働市場の男女格差に改めて目が向くきっかけとなったが、もう一つの側面として、経済学の研究方法についても考える機会とするよう提起するのが神林龍・武蔵大学教授だ。
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――2023年のノーベル経済学賞がゴールディン氏と聞いて、どう思いましたか。
驚きました。というのも、ゴールディンが受賞する可能性は2021年に「消えた」と思っていたからです。
労働経済学の分野にノーベル賞が与えられるとすると、エドワード・ラジアー(注1)が亡くなった後、ゴールディンが最有力候補だと思っていました。
ところが、2021年にデビッド・カードら3人が、データから因果関係を推定する因果推論(注2)の手法を経済学に導入した功績で受賞したことで、ゴールディンのような研究手法は過去のものになっていくのかな、と残念に思ったことを覚えています。
ジグソーパズルのピースをぴったり合わせるか、置くか
――ゴールディンの研究手法とは、どのようなものですか。
事実を先行させて、ラフに大きなマップを描く。精緻に分析することは後手に回り、多少ラフではありますが、経済成長や経済発展の全体的なメカニズムを明らかにします。
そういう研究スタイルは自分のものとも一致しますし、経済学の研究の幅を広げる上では必要なスタイルだと思っています。
デビッド・カードは逆です。ビックピクチャーは描きません。マーケットメカニズムの一部分を精緻に分析する。労働市場のあらゆるトピックを取り上げる巨人ですが、労働市場全体のメカニズムは論文ではほとんど触れません。
――ジグソーパズルにたとえると、デビッド・カードはピースとピースをはめ合わせるような感じでしょうか。
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