結果、一つひとつの調達品の購入量は減り、ボリュームはまとまらなくなる。安価に買うことが難しくなる。さらに、「売ってくれない」「納期も間に合わない」状況が加速する。
順に説明していく。
日本企業と日本の消費者は品質追求が自己目的化している
私が二十数年前に仕事を始めたときのことだ。「調達難? それなら、違うやつを調達したら? あるいは少しぐらい質の劣るものを調達したら?」と思ったものだ。しかし話はそれほど単純ではない。とくに質を下げるのは許されない。
ここで、とある大手食品メーカーのマネージャーに登場いただこう。
「よく日本の食品関係者はクレームに怯えすぎだといわれます。それは私たちが社内で議論するポイントでもあります。たとえば提供する食品に多少は黒い斑点があっても危害性がなければ問題ないんです。海外の仕入先に、日本の消費者のクレームを見せたら『Unbelievable!』と驚かれましたよ。過去に、品質を過剰に守ろうとして、不要な商品回収をした例もあります。それに営業とかマーケティング側がビビりすぎている側面はありますね。
ただ問題なのはクレーマーとして片付けられないんですね。そりゃ『歯にくっつかない海苔を開発しろ』とかメチャクチャな苦情もありますよ。でもね、クレーマーの背後には同じ感想をもつ消費者がたくさんいるようで、対応しないと売れなくなっちゃう。
だから日本のメーカーはまじめに対応していると思いますよ。日本市場を無視できればいいけれど、そうはいかない。『こんな高い品質は必要か?』と思っても、対応せざるをえない。ちょっと前に、メディアが『ステルス値上げ』と報じましたよね。価格は同じだけど容量を減らす。卑劣と言われましたが、どうすればいいんですかね? 品質を下げると買ってもらえない、価格を上げると消費者が離れる」
聞くほどに絶望的な状況のようだ。
「とにかく種類が多すぎるんです。居酒屋は数百種類の食材を使う。これをすべて、安く、安全で、品質の良いものを調達するなんて不可能」。
現実と本音の境目で苦しんでいる様子が見て取れる。
しかし、問題になるのが品質追求の自己目的化だろう。
私は自動車メーカーの研究所で働いていた経験がある。勤務地の地方都市で、休日に私はよく知る自社の技術者と家電量販店で出くわした。彼はテレビの購入を検討していた。安価な外国製テレビを確認していたので「日本メーカーのテレビにしないのですか」と訊くと「まあテレビなんて見られたらいいんじゃない」と答えてくれた。象徴的だった。
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