日本企業が愛する「極端な品質追求」が国を滅ぼす 品質不良ゼロを求めて費用対効果を完全無視…

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アメリカは80年代にモノづくりを捨てた。捨てた、が言いすぎならば、少なくとも縮小した、とはいえるだろう。だからアメリカはソフトやIT分野に舵を切った。そこでアメリカはモノづくりの中堅エンジニアが圧倒的に減少した。とはいえ、アメリカはソフト分野でメシを食うようになったし、製造は他国に任せるようになった。

ただ日本ではモノづくりは捨てていない。その道は捨てていないものの、技術伝承が進んでいないのは問題ではないだろうか。もちろん極端にいえば、技術伝承が進まなくてもいい。品質不良ゼロを求めなければ、イチから設計すればいい。しかし、現実的には品質不良ゼロを求められる。とすれば、現状の内容を踏襲するほかない。少なくとも現状の製品にはクレームがないのだ。だから大胆な変更を避けようとするのは当然だろう。

日本企業は商品のマイナーチェンジばかり

品質を守るために、部材を変更できない、と多くは言う。しかしその意味は、積極的な品質維持というよりも、消極的な品質維持らしい。品質の見直しをせずに、部材が追加されるので、点数ばかりが増えていく。

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似たような話は発電機器類を販売している企業でも聞いた。会話の主はベテランの調達担当者だ。

「昔は、こちらからVA提案(コストを下げる技術的提案)をするでしょう。すると真剣に考えてくれて、いろいろと議論を重ねたものです。しかし、もう無理ですね。技術者の世代が替わって、人数が限られたなかでさまざまな製品を作らねばならない。彼らも客から言われた箇所だけを変更する。全体のシステムを理解する時間もない。

だから、こちらが大幅に修正したら安くなるよ、といっても検討すらできない。全体をいじったら何が起きるかを想像できないためです。だから高いし、時代遅れだし、納期も遅い部材を使い続けています。これはけっこう絶望的な状況ですよ。何を提案しても、まずはダメから入りますからね」

旧来の製品は品質が安定しているから現状維持。追加のところは安全に安全を重ねようと、多重に高仕様を施す。そしてバラバラに設計するものだから、部品や部材、材料の種類ばかりが増えていく。

日本企業は商品のマイナーチェンジばかりを繰り返している。ただでさえ部品や部材の点数が増えている状況だ。標準化が進んでいない。

私が自動車産業で働いているとき、「日本の技術は世界で一番」と自負していた。しかし、ほんとうにそうなのだろうか。おそらくこれは品質を意味するだろう。しかし、技術とはさまざまな側面があるはずだ。部品や部材の点数ばかりが増加し、技術伝承も進まず品質に関わるところがブラックボックス化する状況を世界一と呼ぶのだろうか。
 

坂口 孝則 未来調達研究所

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さかぐち・たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒。電機メーカーや自動車メーカーで調達・購買業務に従事。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の分析が専門。代表的な著作に「調達・購買の教科書」「調達力・購買力の基礎を身につける本」(日刊工業新聞社)、「営業と詐欺のあいだ」(幻冬舎)等がある。最新著は「買い負ける日本」(幻冬舎)。

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