操業停止中の太平洋セメント大船渡工場に2つの可能性【震災関連速報】

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操業停止中の太平洋セメント大船渡工場に2つの可能性【震災関連速報】

セメント首位の太平洋セメントは、東日本大震災の影響で操業を停止している大船渡工場(岩手県大船渡市赤崎町字跡浜)に、4月から調査団を派遣している。調査団は5月の連休も返上して調査にあたり、5月11日の決算発表前後に、大船渡工場復旧の方向性を示す方針だ。

太平洋セメントにとって東北地方で唯一の生産拠点である大船渡工場の生産能力は年間約180万t。同社グループの約10%を占める。従業員は約150人。出口のセメント生産量に比例するが、年間約40万~45万tの廃棄物をセメント原燃料にリサイクルする能力がある。

幸い地震と津波で人的な被害はなかった。だが、2つあるキルン(セメントを焼成する回転窯)のうち、1つが津波による津波の被害(塩害)を受けており、もう1つのキルンも地震で設備が損傷しているという。さらにセメントの原料を受け入れ、出荷する内航船のための港湾設備も損傷しており、全体の復旧には時間と資金がかかる見通しだ。

今後、太平洋セメントがどのような決断をするのか注目される。方向は2つ考えられる。1つは時間と資金をかけて全面復旧する策だ。東北地方の復興にあたり、セメントは不可欠な資材である。がれきなど廃棄物を処理する拠点にもなりえる。

一方で、これにはいくつかの障害が予想される。それは、設備を復旧するには多額の資金がかかりそうなこと。もう一つは復旧したとしても震災復興で本格的なセメント需要が出る時期を見通すことが難しいことだ。がれきを受け入れてセメントにリサイクルできることは、震災地に近い大船渡工場が復旧した際の大きな利点になる。

だが、がれきも塩害を受けていることから、そのままセメント工場に運搬してリサイクルすることは生産設備やセメントの品質に影響を与える。がれきの塩分の除去には大きなコストが想定されることから、この方向に進む場合には、なんらかの公的補助が前提となるだろう。

もう一つの考えられる方向は、地震と津波で被害を受けた大船渡工場の全面復旧を断念することだ。いずれ出てくる東北地方の復興需要には、北海道などにある同社の工場が増産して対応する方向だ。

仮に大船渡工場の年間約180万tの生産設備が停止したとしても、同社のセメント輸出は約430万tあることから、輸出を削減し国内に回す方向に進めば、東北地方の復興需要にも対応できそうだ。

(内田 通夫 =東洋経済オンライン)

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