新聞の敵は「NHKのネットではない」と断言できる 「ニュースはネットでタダで読める」からの脱却

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そこにオブザーバーとして乗り込んできた新聞協会は、NHKが「理解増進情報」を無料でネットで読めるようにしていることが「民業圧迫」に当たると指摘していた。「理解増進情報」とはストレートニュースではなく解説記事などを言う独特の言葉だ。「テキスト業務は撤退」というのはさらに進んで映像と音声以外出すなと言っている。NHKがテキストニュースをネットに出すことを、地方紙が問題視しているというのだ。

NHKのテキストと新聞のネット版は競合する?

これらの場で意見をぶつけ合うのはいいが、新聞協会の主張はあまりにも乱暴でデータも何もない印象論にすぎない。何より、国民の意思や利益をまったく視野に入れていない。自分たちの権益を守るために「怪気炎」を上げる保守派にしか見えない。有識者や政治家のみなさんにわざわざ反感を植え付けているだけで、交渉術としてあまりにも拙い。

受信料をきちんと払っている国民の1人として言わせてもらうが、NHKがネットでテキストニュースや「理解増進情報」を発信するのは、価値ある活動なので絶対にやめてほしくない。何の権利があって「撤退せよ」と言うのだろうか。国民の利益を損なうことをゴリゴリ言っても、世間の新聞業界への反感を巻き起こすだけだと理解したほうがいい。

私は日本経済新聞を紙で購読し、ネット版も読んでいる。一方、朝日新聞デジタルの有料購読者でもある。NHKがテキストニュースをネットでいまより配信したからといって、2紙の購読をやめたりしない。新聞のネット版とNHKのテキストニュースは競合関係にはまったくなっていない。なぜならば性質が全然違うからだ。

NHKのニュースはあまり余計な色がついておらず、解説的なものにしても語り手のキャラクターはほとんど出さない。純度は高いが味は薄いのが公共放送NHKの特徴だし、それでいい。

新聞は、それぞれの傾向があり、記者個人の主張を感じることも多い。経済情報ではNHKより日本経済新聞のほうがさらに詳しくディープだ。朝日新聞はよく言われるような左への偏りも感じる。それもわかったうえで、独自のオピニオン性が高いし、特集やシリーズも興味を引くものが多い。時折、左に傾きすぎて辟易することもあるが、それもわかったうえで重宝している。

実は紙の時代は日本経済新聞だけを購読していた。ネットでさまざまなメディアに接するうちに、朝日は全文読みたい記事が多いことに気づいてデジタル版を契約した。そこにNHKのテキストニュースが多少量が増えたところで、朝日や日経が不要になったりはしないのだ。

地方紙にとってとくにNHKのネット進出が脅威だと言うが、それを言うなら全国紙が各地方に進出しているほうがずっと具体的な脅威だろう。NHKにとやかく言う前に新聞社同士がエリア制限し互いを守るほうがずっと地方紙にとって重要ではないか。それを調整するのも業界団体の役割ではないのか?

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