日野と三菱ふそう「経営統合」、2つの関門の越え方 M&A専門家に聞く、日野の法的リスクへの対処法

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――日野が東京証券取引所に提出した臨時報告書によると、エンジン不正による損害が出た場合、三菱ふそうの株主に対して日野や新持ち株会社が金銭を支払う「特別補償」を定めています。この特別補償がダイムラー・トラックにとってのリスク対応なのでしょうか。

M&Aには経営統合や買収後、相手先企業の買収前の事象が原因で損害が発生することがある。そのため、最終契約書では売り手が買い手に補償する責任を負う「補償条項」を定めることは珍しくない。不動産でいう瑕疵担保責任のようなものだ。

――ただ、日野の場合、いつの時点でどれほどの規模の金額が発生するかはまだわかりません。

そのためにも補償の支払いの対象期間が設けられる。日野の補償の場合、1年は短くて心もとないので、極めて珍しいが例えば3年、5年といった長い期間にして、補償の金額規模の上限も大きくなるかもしれない。

――そもそも、統合後に発生した損失について、誰がどのように補償金を支払うのでしょうか。統合後の持ち株会社や日野が支払った場合、ダイムラー・トラックを含めた株主全体が間接的にその負担を負うことになります。

それこそフィナンシャルアドバイザー(FA)の腕の見せ所で、ストラクチャーの組み方にはさまざまな可能性がある。最も簡単なのは、現在の日野の親会社であるトヨタが、補償額が確定するたびに直接ダイムラー・トラックに補償することだ。

誰がどのように補償するのか

はっとり・のぶみち/早稲田大学大学院経営管理研究科客員教授。東京大学工学部卒業後、日産自動車入社。マサチューセッツ工科大学でMBA取得後、ゴールドマン・サックス証券に入社。1998年から2003年までマネージング・ディレクターとして日本におけるM&A業務を統括(撮影:今井康一)

――補償する際、具体的にはどのような方法が考えられますか?

トヨタはダイムラー・トラックに契約上の補償金を現金で支払い損金算入し、ダイムラー・トラックはその現金で統合会社の損失を、やはり契約上の義務として代位弁済することが考えられる。本来、この損金はトヨタと共に日野の49%一般株主も被るべき損金ではあるのだが。

――統合後の持ち株会社は東証プライム市場に上場する予定です。また、その際、トヨタとダイムラー・トラックの出資比率は同等と発表しています。

船頭多くして船山に上るとはこのことで、同等比率だと優劣がつけられず責任の所在が不明確になりがちだ。新会社の経営の主導権をダイムラー・トラックが握って、基本方針を決めるというシナリオが考えられる。そのためにもダイムラー・トラックが実質的に統合会社の主導権を握れる工夫がないと同等の出資比率の経営形態にダイムラー・トラックが乗るとは思えない。

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