プラセボ効果とは、ある種の介入(薬、処置、注射など)が役に立つだろう、と期待することによって生み出されるプラスの結果のことで、とても強いパワーをもちます。しかし、痛みが軽くなるという期待が、どのようにして気分を改善するのでしょうか?
説明の一つは、治療に対する私たちの信念が行動に影響する、というものです。具体的には、ある薬には効き目があることを期待すると、私たちは実際に有益な効果が得られるように行動を変える場合があります。
例えば、頭が割れるほどの痛みに襲われたときに、この痛みを取り除いてくれることを信じて薬を飲むとします。痛みはすぐに消える、という期待感から、リラックスすることができるので、それによって頭痛が軽減されるのです。
ポジティブなマインドセットが健康状態の改善に効果があることを示した顕著な例を紹介します。この研究は、ヒューストン退役軍人医療センターの整形外科医であるブルース・モーズリーによって行われました。この研究では、変形性膝関節症の男性が以下の三つの条件群のいずれかに無作為に割り当てられました。
● 膝関節の洗浄措置は行うが、通常の手術で行うような削り取りは行わない第2条件群。
● 実際の医療処置は行わずに、膝をメスで切るだけの第3条件群。
痛みや歩行機能の程度に関する差異は示されなかった
研究参加者は全員同意していましたが、どのような手術を受けるのかどうかは告げられていませんでした。そして「実際の手術」が「プラセボ手術」よりも本当に優れているのかどうかを判断するために、2年間にわたって定期的な評価が行われました。
研究者は、研究参加者の男性たちに、どの程度の痛みを感じているか、歩いたり階段を上ったりといった日常生活の作業に従事するための機能が改善したかどうか、について質問しました。
研究結果は注目に値するものでした。2年間の追跡期間のどの時点においても、これら3つの条件群の間で、痛みや歩行機能の程度に関する差異は示されなかったのです。
研究者は、3つの条件群に同等の改善がもたらされた理由を正確に説明することはできませんでした。しかし、可能性の1つとして、機能を改善する手術を受けた、と研究参加者が信じたことで行動が変化したことが考えられます。
3つの条件群の男性たちは、動きをよくするために定期的に運動をしたり、理学療法士と一緒に作業を行うなど、回復するための指導に熱心に取り組んでいた可能性があります。その結果、そのような行動をとることによって、痛みの軽減や機能の改善につながったのかもしれません。
他の研究でも「プラセボ手術」の効果について同様の研究結果が得られています。例えば、脊椎を骨折した患者が偽の手術を受けた結果、痛みの軽減や身体機能が改善したことまで報告されていますし、パーキンソン病の患者がプラセボ手術を受けた結果、運動機能に著しい改善が見られたことも報告されています。
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