値段の「安い薬と高い薬」治りに影響するその違い 「ブランド名や薬の値段」が薬効を強める理由

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さて、このミルクシェイクの研究は、マインドセットの短期的な効果を調べたにすぎません。しかし、別の研究によれば、マインドセットが私たちの身体に大きく、そして持続的な生理学的な変化をもたらすことが示されています。

マインドセットを変えるだけで、より健康的な結果に

例えば、ホテルの客室清掃の仕事をしている女性たちが運動の効果に関するある研究に参加しました。この研究では、はじめに、研究参加者全員に、健康維持のために定期的に体を動かすことの重要性に関する情報を提供しました。

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次に、半数の女性には、ホテルの客室を掃除する仕事は、外科医の1日の活動量に匹敵する十分な運動量であることを教示しました。例えば、リネン類を15分間交換すると約40キロカロリー、掃除機を15分間かけると約50キロカロリーを消費することを伝えました。

もう一方の研究参加者群にはこの情報は提供されませんでした。

研究者たちは、4週間後にホテルに戻って、体重、体脂肪、血圧など、女性たちの健康状態の変化を測定しました。その結果、研究参加者に「身体を動かす仕事をしている」と伝えただけで、健康状態が改善されることがわかりました。

具体的には、何も知らされなかった女性たちに比べて、掃除が1日の推奨運動量に含まれるということを知らされた女性たちは、体重、血圧、体脂肪、ウエスト/ヒップ比、BMI(訳注:Body Mass Indexの略称。ボディマス指数と呼ばれる指標で、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数のこと)が減少したのです。

どうしてでしょうか? 正確な理由はわからないそうです。掃除をするという仕事が身体活動に含まれると知らされた女性は、これまで以上に精力的に仕事に取り組んだのかもしれません。推奨される1日の身体運動量を満たしている、という確信を得たことが食事や運動に関係する行動に何らかの変化をもたらしたのかもしれません。

このような効果が得られる正確なメカニズムは不明ですが、この研究結果は、運動に対する人々のマインドセットを変えるだけで、より健康的な結果が得られる可能性があることを示唆しています。

この研究を発表したハーバード大学のエレン・ランガー教授(心理学)は「この研究は、ほとんどの人が思っているよりも、はるかに多くの心理的・身体的機能をコントロールできる可能性があることを明らかにしたと思います」と述べています。

(訳/本多明生)

キャサリン・A・サンダーソン アマースト大学マンウェル・ファミリー生命科学(心理学)教授

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きゃさりん・A・さんだーそん / CATHERINE A. SANDERSON

スタンフォード大学にて心理学の優等学士号と健康と発達に関する専門知識を習得した後プリンストン大学にて心理学の修士と博士の学位を取得。性格や社会的変数が健康に関連する行動にどのように影響するのか不健康な行動を予防するための説得力のあるメッセージや介入方法の開発、人間関係の満足感の予測因子について研究している。これらの研究は米国国立科学財団および米国国立衛生研究所からの助成金の交付を受けている。複数の学術誌の編集委員、教育テストサービス(ETS)の共通試験の心理学委員会メンバー、米国医科大学協会のコンサルタントを務める。2012年にはプリンストン・レビュー誌において全米トップ300の教授の1人に選出された

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