なぜ外資系金融関係者の予想はいつも外れるのか すばらしかった植田日銀総裁に謝罪をしたい

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さて、もう1つ興味深かったのは、日銀の決定した政策自体であり、それを説明した、28日午後3時半からの植田総裁の記者会見だ。

中央銀行トップとして最高に誠実・率直・丁寧な説明

まず、植田総裁はすばらしかった。記者の意地悪な質問、しつこい質問、攻撃的な質問、いずれの質問にも、非常に丁寧に答えた。

さらに、木で鼻をくくったような答弁でなく、「政策の修正なのか、そうでないのか、わけわからん、はっきりしろ!」というような質問に対しても、「長短金利操作の運用を柔軟化」と書いてあるのは、政策の修正ということだと思う」などと、静かに堂々と答えていた。

そして、「YCCの副作用として金融市場のボラティリティー(変動率)の拡大があると言っているが、この金融市場とは何の市場のことなのか」という趣旨の質問に対して、堂々と「為替のボラティリティーを含む」と言い切った。

すばらしい。

これほど、誠実で率直で丁寧な説明が、これまで世界中の中央銀行トップの記者会見であっただろうか。植田氏の面目躍如である。私の記事「なぜ危機にある日銀植田総裁にみんな優しいのか」(6月18日配信)では「『闘う男植田』は消えた」などと批判したが、訂正して謝罪したい。

今回の政策決定会合の内容をまとめると、YCCの枠組みは維持。ただし、連続指し値オペは修正。毎日実質的にそれが有効になるのではなく、1.0%での指し値オペであり、万が一の金利急騰が起きたときの保険としてセットする。そして保険があることにより、金利のボラティリティーも低下することを狙った措置とする。

一方で0.5%を柔軟化することにより、妥当な長期金利は0.5%ということは維持する。だから緩和の縮小ではないが、金融市場の機能を殺さないように、市場動向が反映されるようにした。ただし、0.5%が妥当という判断だから、大きくは離れないように状況を見て、機動的に買い入れを行う。こうした政策だ。

これは、私個人としては、ややハト派すぎるとは思う。だが、ハト派的なスタンスを前提とすれば、大変バランスの取れた、現実的には妥当なスキームではないだろうか。

そしてなにより、タイミングがすばらしい。YCCが追い込まれる前に「先に動いておいた」という植田氏の説明はまったくそのとおりだし、そう率直に説明するのもすばらしいし、そして、何より実際にそう動いたのがすばらしい。植田日銀に、今後とも期待して、応援したい。

(今回は競馬の予想はありません。ご了承ください。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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