「価格競争を脱する」マーケティングの2つの戦略 日本の製造業が低利益率から抜け出せない理由

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日本企業の売上高利益率は、半世紀以上ほぼ一貫して低下してきた。とりわけ利益率の低下が顕著なのはBtoB関連の製造業である。

このことの理由の1つは、自らコンセプトの策定をせず、顧客の要望に一方的に委ねているからだ。顧客企業は同じような要望を競合企業にも提示している。その要望に応えることにばかり目が向いてしまうと、同じコンセプトの製品が市場にあふれることとなる。そうなると、受注の決め手は価格にならざるをえず、結果としてレッドオーシャンになってしまう。

キーエンスの高利益率を可能とした戦略

たとえば、きわめて高い利益率を誇るキーエンスでは、顧客の要望に過剰に反応せず、自ら提供価値を決めて成長している。同社では、大企業から中小企業まで国内だけで10万社に及ぶという膨大な顧客を有している。それらの顧客との接触頻度を高め、実際に商品が使用される顧客の現場に深く入り込み、観察を行うことに最大限注力する。

それによって、顕在化した要求や不満はもとより、その裏側にある顧客自身ですら気づいていない本質的な問題、すなわち潜在ニーズを探り出すことが可能になっている。重要なのは、収集された膨大なニーズ情報には個別に対応することはなく、その情報を分析し、自らリスクをとって次の製品に反映しているという点である。

そもそも、自社製品やサービスの価値内容を顧客に一方的に依存するということは、自社の成長を顧客に委ねているということにほかならない。自分の成長は自分で責任を持ち、しっかりグリップするのがまっとうな企業活動というべきだろう。そうでなければ、製品開発から売り上げまでの仮説検証を自ら繰り返すことが不可能になってしまう。

コンセプトを決めることは、提供する製品の価値を決めるということであり、取引において至極当たり前のことなのだがなかなか難しい作業である。顧客の要望=自社製品の提供価値(コンセプト)という価値観をもち、良かれと思ってやってきた活動であるから、一朝一夕で変えられるものではない。

さらに、コンセプトの設定にかかわる問題だけでなく、市場調査の精度、製品開発プロセスの変更、個々の顧客へのカスタマイズ方法など、影響が広範囲にわたることも実践のしにくさを生んでいる。

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