「価格競争を脱する」マーケティングの2つの戦略 日本の製造業が低利益率から抜け出せない理由

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グローバル市場では、広告やブランドを中心に置いたプル型プロモーションによってもたらされる規模の経済によって、マーケティング効率を高めている欧米企業が多く見られる。

しかし、プル型プロモーションには、売り上げによって投資を回収しなければならないというリスクが付随するため、マーケティング投資に踏み切れない企業も多い。あるいは、製品の価値、すなわちコンセプトを決めないというリスク回避行動の結果、価格競争に巻き込まれ利益率を落としている企業が少なからず存在する。

BtoB企業の経営層には、リスクをとって新しいマーケティングを展開する姿勢が求められている。

柳井正氏の檄

およそ半世紀前に、パナソニックはファクシミリ最大手の東方電機(のちに松下電送システム)を買収し傘下に置いた。このことを同社の創業者松下幸之助翁はたいへん喜んだという。一般消費者向け(BtoC)の家電事業は、景気に左右されやすく、経営が安定せず苦境に陥ることが少なからずあった。

当時、BtoB市場が中心だったファクシミリ事業を手に入れることができ、将来に向けて安定的な事業展開への布石が打てたことに安堵したからだろう。この頃から、パナソニックはBtoB事業の割合を拡大していくことになる。

そして数年前、パナソニックは創業100周年を迎えた。その記念講演で、ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が檄を飛ばしている。ネットで紹介されている記事によれば、「パナソニックブランドはBtoBでは輝かない」と話したそうだ。「アップルやグーグル、世界で輝くブランドはみなBtoCだ」と続けている。

勝手な解釈を加えると、「リスクをとって大きな夢を実現してほしい」ということだろうか。

余田 拓郎 慶應ビジネス・スクール教授

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よだ たくろう

1960年広島県生まれ。東京大学工学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了。住友電気工業、名古屋市立大学経済学部助教授などを経て、2007年より現職。19~21年慶應義塾大学大学院経営管理研究科委員長兼ビジネス・スクール校長。11~13年商品開発・管理学会会長。専門は、マーケティング戦略、BtoBマーケティング。主な著書に『カスタマー・リレーションの戦略論理』(白桃書房)、『BtoB事業のための成分ブランディング』(中央経済社)、『実践BtoBマーケティング』(共編著、東洋経済新報社)などがある。

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